WEIRD

ゲーム業界をマーケティング視点で読み解く

店頭からゲームがなくなる日。『モンスターハンター:ワールド』が起こした静かな革命

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 『モンスターハンター: ワールド』が販売本数500万本を突破し、国内でもPS4ソフト歴代販売本数を塗り替えた。非携帯版のモンハンシリーズの成功は家庭用ゲーム業界にとって喜ばしい。Switch発売から始まった「家庭用ゲームへの回帰」が勢いづいてきた印象がある。


 『モンスターハンター: ワールド』の成功は表面的な販売本数以上に、気づきにくいが重要な変化をもたらした。ノンパッケージ(ダウンロード)の販売である。


 カプコンが初動販売500万本という数字と共に国内での販売本数が占める比率が4割程度であることを発表した。よって、国内の初動販売本数は200万本ほどと推定される。


 更に追ってファミ通が国内のパッケージ版の販売本数を135万本と発表。これにより、200万本から135万本を引いた65万本がノンパッケージ版(ダウンロード)販売本数となる。比率にすると全体の32.5%だ。


 この数字がどのような意味を持つのか。


 「ファミ通ゲーム白書2017」によるゲームプレイヤー調査によると、「常にパッケージ版を購入する」比率はゲームプレイヤーの67%、「主にパッケージ版を購入し、たまにノンパッケージ版を購入する」比率は23%。合わせて、パッケージ主流派が80%という結果である。


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 パブリッシャーの情報を参照すると、スクエアエニックスが決算時に全タイトルのパッケージ版・ノンパッケージ版の合計販売本数を発表しており、2017年国内実績ではパッケージ版が85%、ノンパッケージ版が15%という結果になっている。(SQUARE ENIX 2017年3月期 決算説明資料 http://www.hd.square-enix.com/jpn/news/pdf/17q4slidesJPN.pdf )


 つまり、今まで日本のゲーム産業はパッケージ版の流通が大半で、ノンパッケージ版は支流に過ぎなかった。21世紀になった今でも、日本ではゲーム発売日に販売店に連なる行列がニュースになり、昨年発売された「ドラゴンクエストXI」でも行列がメディアで報道された。


 そんな中、PS4で最も売れた『モンスターハンター: ワールド』のノンパッケージ比率が平均値の2倍を超えたのである。行列をつくるには今年の冬は寒すぎたという外的要因もあるかもしれないが、これは家庭用ゲーム市場における販売チャネルのシフトであり、業界にとって大きな出来事だ。


 もう一度スクエアエニックスの決算資料を参照すると、欧米のパッケージ・ノンパッケージ比率はおよそ50%。アジアにいたってはノンパッケージの販売比率のほうが高い。世界のゲーム市場において、日本の「パッケージ信仰」は特殊といえる。


 考えてみれば、21世紀に入って音楽も映画も本もマンガも「パッケージ」は勢いをなくし、ダウンロードまたはストリーミングに代替されていった。スマホゲームではそもそもパッケージなんていうものは存在せず、ネット上のマーケットにしか商品は存在しない。PCゲームにしても、パッケージ版を購入する場合には、「エロゲーの箱を壁一面に並べてうっとりしたい」ぐらいの動機しか存在しないだろう、たぶん
 

 家庭用ゲームだけが「パッケージ」に大きく依存してきたのだ。


 『モンスターハンター: ワールド』で顕著になった大きなシフトは、マーケットプレイスでのキャンペーンの展開、ダウンロードコンテンツの配信といったこれまでのパブリッシャーのマーケティング施策のたまものだろう。

 
 "棚"という物理的な制限が無いマーケットプレイスでは過去作から最新作まであらゆるタイトルを展開できる。期間限定セールをかければ、過去作でも大きな収入源になる。パブリッシャーにとって、販売を自由にコントロールできるというメリットはとてつもなく大きい。


 Amazonが、Appleがそうであったように、こうなってくるとゲーム業界においてもマーケットプレイスが重要になってくるだろう。どこで売るのか、どのように売るのか。頻繁にユーザーがアクセスし、コンテンツが充実した販売チャネルにユーザーはひかれていく。


 現在ゲーム業界最強のマーケットプレイスはSteamだ(日本以外で)。PCという最も普及した汎用機で動くマーケットプレイスに世界中のユーザーが集まっている。


 これをマイクロソフトが買収するという噂があるが、さもありなん。「販売チャネルをいかに制するかが」今後のゲーム業界において最も重要な課題だからである。


 『モンスターハンター: ワールド』のノンパッケージ比率が高かったのは静かな革命の始まりだったのか、それとも「全部雪のせい」だったのか。


 筆者は前者だと思っているので、軽く震えあがっている(色んな意味で)。