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「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」は 何が良くて何が悪かったか?

スター・ウォーズ/最後のジェダイ  オリジナル・サウンドトラック


 ウィークエンドシャッフルでは宇多丸師匠が酷評するし、↓みたいな記事も出てくるし、「新作楽しみにしてたのにあかんのか…」と思って身構えて観に行ったら、全くそんな駄作でもなかったし、スクリーン切り裂きたくなるようなワースト映画じゃなかった。

anond.hatelabo.jp


 色々なところで散見される脚本について。3部作の真ん中にあたる本作の主眼は「世代交代」だ。


 エピソード7で登場したレイ、フィン、ダメロン、カイロ・レン。味方・敵共にこういったキャラクター達が旧世代にとって代わっていく。この作業が強引過ぎるほどの展開で進んでいくので、ジェットコースターというより大殺戮ショーみたいになっている感は否めない。


 「創造と破壊」のプロセスで言えば、「破壊」の役割を担った本作にはカタルシスが生まれにくいという欠点もある。


 ファースト・オーダーの猛攻を受けて、反乱軍は兎に角逃げる。逃げる途中で仲間がどんどん死んでいく。「旧世代を間引くこと」が物語の終着に設定されているから、陰鬱な展開ばかりが続く。


 仲間を逃がすというプロセスをドラマチックに描ければもっと評価が高くなったと思う。例えば、同じく大殺戮の中で生き延びるというテーマで物語が展開する「シンドラーのリスト」では、生き延びた人の名前を呼ぶというシーンが象徴的に描かれるが、そういった描写、逃げて生き延びる反乱軍一人一人に思いを寄せられるような描写があればもっと良くなったはず。


 反乱軍の無策、特に対弩級艦戦の被害の大きさに言及するような批評があるが、これは的外れだと思う。敵の圧倒的火力を叩くために、低コストの補給艦みたいな船に爆弾を詰め込んでぶつける、というのは理にかなっている。船のほとんどが破壊されるというのも想定の範囲だろう。圧倒的に軍事費が乏しいんだから、戦術は限られる。装備の整った強力な船が用意できるわけがない。ベストではないまでも合理的な戦術だ。

 
 同じく反乱軍の無策というかお粗末さみたいな話で、ホルド提督がダメロンに対して「小型輸送船に乗せて脱出する」という戦術を隠していたせいで事態が悪化したというのがあるが、これも的外れ。そもそもダメロンは旧日本軍の青年将校みたく、圧倒的な戦力に対して玉砕覚悟の戦闘を繰り返すような奴である。対弩級艦の戦いでも、結果として敵艦を撃破したものの、大きなリスクを伴う選択をした。撤退戦という最も難しい局面にあって、ダメロンの自分本位な行動は危険すぎる。ましてや、戦力を捨てて逃げると彼に仄めかそうものなら、クーデターを起こしかねない。ホルドの判断は正しい。(結局、不信任ではなく不信感からクーデターが起きてしまうけれど)


 レイアやホルドといった指揮官たちは自己犠牲によって仲間を助け、反乱の火花を次の世代につなごうとする。彼女たちの姿を見て、ダメロンは段々と成長していく。クレイトでルークが一人で敵軍に向かっていくところで、ダメロンだけがルークの意図をくみ取り、仲間に対して撤退することを進言する。彼は指揮官として何が最も大切かをレイアやホルドから学んだから。


 フィン・ローズ組のカント・バイトでの行動が全く無に帰すから脚本がダメ、という意見も論外。そらそうだろうよ。ダメロン・フィンという未だ成長していない若者たちが発案した作戦なんだから、失敗するに決まっている。逆に失敗することにこそ意味がある。若者たちの失敗を、大人たちがしりぬぐいすることで、若者たちが更に成長するという話なんだから。


 フィンはローズからいろいろなことを学ぶ。ファーストオーダーが作ったゆがんだ社会について、誰かを助けるということについて、自己犠牲について。ローズは命を賭して皆を守った姉の行動から、いち早く成長し、フィンを導くポジションにつく。大勢の仲間を見捨てて一人の友達を助けようとするフィンを(電気ショックで)たしなめ、カント・バイトでフィンを導き、特攻するフィンに対して必死に呼びかける。ローズのおかげで、フィンも成長する。


 ルークの扱いについても色々と批評がある。「世の中に平和をもたらすジェダイ自身がカタストロフィの元凶である」という真理に悩むルークに、「前3部作の成長が見られない」という意見があるが、いいじゃんか、悩んでも。ていうか人間って60になっても70になっても、一生悩む生き物だろう。ジェダイだって悩む。ヨーダだって悩んでた。ヨーダの年齢の半分も生きていないルークならなおさらだ。


 自分が起こしてしまった過ち、ベン・ソロがダークサイドに堕ちてしまったことにルークは悩みまくっているのだが、突然現れたヨーダににこやかに窘められる。失敗はするもんだし、起きてしまったことはしゃあない、でもお前が今何も行動せんかったら、レイまでダークサイドに堕ちるど、って。過去に起こったこと、記憶や書物にとらわれずに、今なすべきことをしなさいと言われて、ルークは一人、涅槃に入るのだ(マジで)。

 
 本作で悪かったところ、って実はあんまりないんだけれど、しいて言うなら「ジャンプ・アタック」。ホルドが輸送船への砲撃を止めるために敵艦隊にジャンプして殲滅させるんだが、え、それありやったらデススターのコアにジャンプしたらよかったんちゃう? とか、とりあえずなんでもかんでもジャンプ攻撃すればバリア意味なくない? とか、たぶん次作以降はこの戦法はナーフされてると思う。
 

 あと、ジェダイの能力の圧倒的飛躍。今回、宇宙空間を飛ぶわ分身の術使うわ銀河間でテレパシーするわ何でもあり。レイア姫が宇宙空間でスーパーマンやりだしたときは椅子からひっくり返りそうになった。


 あとは強引なカメラの切り替え。ライアン・ジョンソンの前作「LOOPER」でもそうだったが、めちゃめちゃ強引にカメラが切り替わって、あっちにいったりこっちに行ったり、“画”がめちゃめちゃ忙しい。レイさんがフォースの悟りに入るシーンでも、お前いつ水浸しになったんや…という、気が付いたらさっきまでと状況が違うみたいなことが多発してた。その割にくどくどスローにする場所がイケてなかったり…。あと、キャプテン・ファズマがフィンとローズを捕らえて処刑するというシーンで、「私が合図をしたら殺せ!」というセリフの後、カットが3回くらい切り替わっても処刑されずにうだうだしているシーンとか、いやこれカット間引きせぇや…というのは多々あった。


 細かいけれど、こんなところ。


 この作品の脚本に対して酷評されてるってのは本当に意味が分からない。脚本の出来でいったら、「ローグワン」のほうが圧倒的にダメだろうよ。ローグ・ワンのメンバーの誰一人に対して興味も関心も持てず、あっちこっちの惑星に飛ばされ、あげくに偉大なるドニー・イェンが全くカッコいい見せ場の無いまま終わるという作品だったよ、あれは。


 あと、本作が人生ワーストとかぬかす奴は 隣のスクリーンで上映してる山田涼介が金髪ウィッグかぶりながら2時間叫び続ける映画をちゃんと観てから物申すように念を押したい