WEIRD

ゲーム業界をマーケティング視点で読み解く

かつて「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」は革新の象徴だった

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 「ソニック・マニア」が8月16日にリリースされて、批評家もユーザーも絶賛している。Metacriticのユーザースコアは8.9で、BotWより高い。Steam版の配信で若干ごちゃごちゃしているが、販売は概ね伸びているようだ。


 一方日本はというとWikipediaのページも無ぇという状況である


 で、なぜこんなに海外(というかアメリカ)と日本でこんなに温度差があるのかというと、元祖ソニックが発売されたメガドライブの販売台数の違いが原因である。


 1989年、技術力と発想力が変態じみていたセガ任天堂が8ビットマシンで帝国を築いていたゲーム産業に16ビットマシンのメガドライブを投入した。


 「獣王記」とか「ファンタシースターII」とか渋いゲームを投入していたが、ヒット作には恵まれず、苦戦を強いられていた。

 
 セガ中山隼雄社長はアタリショック後の任天堂独り勝ち状態であったアメリカ市場に一石を投じるべく、支社のセガ・オブ・アメリカの社長の席に玩具メーカーのマテル社の社長を一本釣りで連れてきた。40を過ぎたばかりの若き経営者トム・カリンスキーである。


 マテル時代のカリンスキーの実績はというと、バービー人形のラインナップを増やして売り上げを増やしたり、アメリカ屈指のスーパーヒーロー「ヒーマン」とそのコミックシリーズ「マスター・オブ・ジ・ユニバース」を開発したりした。変なMADで有名な「ヒーマン」の生みの親である


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 カリンスキーが社長に就任した直後のセガ・オブ・アメリカは荒んでいた。任天堂にこっぴどくやられ、期待のハード機メガドライブ(アメリカでは名称はGENESIS)の売り上げは伸びず、会議では罵詈雑言が飛び交う。日本のセガ本社からは「サージェント・カブキマン」なるC級コメディ映画の版権を取りに行けなどと狂った指示が飛んでくる。


 この時代の任天堂は圧倒的だった。強固な小売り店ネットワークを有し、アメリカ全土でファミコンを供給していた。


 開発業者は手数料も支払いタームも圧倒的に不利な条件の契約を結んでファミコンゲームを制作していた。誰も任天堂に逆らえなかった。


 そんなゲーム産業に革命をもたらしたのが、青いハリネズミのキャラクターである。


 原案はデザイナーの大島直人とプログラマー中裕司。もともとの名前は「ミスター・ニードル・マウス」、それが「ソニック」に代わり、セガ・オブ・アメリカのスタッフがキャラクターに生えていた牙を抜いたり、巨乳の人間のガールフレンドを間引いたりして、最後に「ザ・ヘッジホッグ」というフルネームを与えて、今のソニックが出来上がった。


 セガ・オブ・アメリカのカリンスキーは大島と中が作り上げた新作ゲーム「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」が革新的で最高のゲームだとみなして、ソフトの発売を機に任天堂に戦争をしかける。


 1991年の8月、任天堂が16ビットの最新機スーパーファミコンをアメリカで販売開始する時期を見計らい、セガ・オブ・アメリカはその前後3か月間にメガドライブの販売キャンペーンを展開する。メガドライブに「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を同梱し、スーパーファミコンが普及する前にセガのハード機を市場にばら撒くという作戦だった。


 キャンペーンのうたい文句は「卒業したらGENESIS(メガドライブ)」。子供から圧倒的支持を受ける任天堂と差別化を図るために、クールで、先進的で、型破りといったブランドイメージを作り上げた。それを体現するのがソニックというキャラクターであり、彼が繰り出す超スピードのアクションは他のどんなゲームでも真似ができなかった。

 
 キャンペーンはセガ・オブ・アメリカの予想をはるかに上回る効果を上げた。キャンペーン開始直後から「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」同梱のメガドライブは数万台というペースで売れ続けた。結果、メガドライブは1995年までにアメリカのハード機シェアの半数以上を獲得し、2,000万台という台数が売れた。メガドライブの日本での販売台数が360万台くらいなので比べ物にならない。


 アメリカ人にとってソニックはみんなが知っているキャラクターなんである。


 日本ではアメリカほどの人気はないソニックだが、筆者にとっては結構思い出深い。


 1998年のドリームキャストローンチタイトルの「ソニックアドベンチャー」は驚愕だった。あの超スピードアクションを3Dワールドで実現できるなんて思ってもいなかったところに、定番のバネアクションや一回転するアクション、床が傾く戦艦での戦闘など、信じられないような技術が詰まっていたゲームだった。BGMも超かっこよかった。


 マスターシステムゲームギアメガドライブ、サターンとセガハード機を追ってきた筆者は、「ようやくセガの時代が来たんやで! やっぱりソニックが天下とるんや!」とめちゃめちゃ興奮していたことを覚えている。


 まあその結末は言わずもがな…。


 「ソニックマニア」は懐古的なタイトルだし、日本で流行らないのはしかたない。けど、新作「ソニックフォース」はもう少し盛り上がるかな。


 あ、Wikipediaページはないけど、ニコニコ百科ページがあった。


dic.nicovideo.jp