CEDEC 2017の任天堂セッションが神回だった
CEDEC2017の「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(BotW)のセッションに行ってきたのだが、すこぶる面白かった。
いくつかセッションがあったが、見に行ったのはテクニカルディレクターの堂田さんとアートディレクターの滝澤さんのセッション。内容は、いかにBotW世界の"空気感"を3Dグラフィックスによって表現したのか。
発売前はグラフィックスについてなんやかんや言われてきたBotWである。発表のたびに、写実的な路線から抽象化されたグラフィックスに変化していき、同時期発売のゲリラゲームズの「Horizon Zero Dawn」と比較されてきた。
蓋を開けてみれば、BotWのグラフィックスは素晴らしかった。澄んだ水の表現、雨の後のムっとした空気の表現、遠くにある靄のかかった山々の表現、すべてがハイラルの世界を彩り、プレイヤーを魅了した。
アートディレクターの滝澤さん曰く、重視したのは"空気感"だった。写実的に描写された山をワールドに配置しても、実際の距離にして京都市ほどの広さしかないハイラルから見上げれば、小さくて見すぼらしい山に見える。しかし、靄をかけて部分を隠し、距離に応じて色の濃淡を変えれば、荘厳な山に見える。彼は実家に帰省する際に車中から見える山を深く観察して、BotWのアートワークを作ったそうだ。
「ゼルダの伝説ポータル」PRODUCTION NOTESに滝澤アートディレクターの記事「気になる!?スポットをご紹介」を掲載しました。この場所、どこかわかりますか?https://t.co/TMcI13U6y1 pic.twitter.com/oufSWnXl0T
— ゼルダの伝説 (@ZeldaOfficialJP) 2017年3月28日
アートサイドからの要望に応えるのがテクニカルサイドの堂田さんたちの仕事で、この"空気感"を演出するために、環境にレイヤーをかけるパラメーターを200近く用意した。砂漠に行けば砂が舞い、部屋に入ればガラス越しの自然光があたりを照らす。近景・中景・遠景それぞれを気候・時間といった要素に応じてオブジェクトを彩るパラメーター群。
アートサイドとテクニカルサイドは社内の掲示板を用いて"絵を用いて"コミュニケーションを取り合い、グラフィックスをブラッシュアップしていった。オープンワールドで今までにない自由度のゲームであり、ゲーム進行に併せてリアルタイム、インタラクティブにグラフィックスを描写していかなければならない。ハードの性能もある。ゆえに制限は多い。
写実的なグラフィックスが開発が進むにつれて変化していったのも、この制限を乗り越えるためだったのだろう。
とはいえ、堂田さん・滝澤さんが強調していたのはグラフィックスの目的を見失わないこと。"空気感"のグラフィックスはハイラルの世界に降り立ったプレイヤーを引き込む演出である。方法はどうあれ「あそこに見える山に登りたい!冒険をしたい!」という欲求を掻き立てればよいのだ。そして、BotWは制限を乗り越えて見事にそれを実現した。
「ゼルダの伝説ポータル」BLOGに堂田テクニカルディレクターの記事「掛け算の遊び」を掲載しました。https://t.co/E5biogosbq pic.twitter.com/rQyg7u78qi
— ゼルダの伝説 (@ZeldaOfficialJP) 2017年5月26日
なんやかんやで3Dグラフィックスというと、日本の技術は海の向こうに比べてショボいんだろうなぁ…というイメージがある。グラフィックスに関してはアクティビジョン、EA、ベセスダから出てくるゲームには勝てんよね…と反射的に思ってしまう。
でもなんのなんの、任天堂すげぇよ。3Dで、オープンワールドで、こんなところまで来てんじゃん。Horizonも良かったけど、このグラフィックスの方向性はゼルダシリーズにしか出来ないよ。新しいハードのローンチタイトルに相応しい、知恵と工夫にあふれた最高のタイトルだった。
セッションは1時間ほどだったが、プレゼンテーションに詰め込まれた情報とノウハウに圧倒されて、気が付いたら終わっていた。お二人のしゃべりも素晴らしかった。
マジで神回だったので、1セッションしか出られなかったことが悔やまれる。
任天堂さん、全部のセッションをDVD化してください。ゲームに関わる人、たぶん全員買います。