人工知能にはずっと他人でいてほしい
flic.kr photo by littlelostrobot
サイエンジニアと北海道大学大学院の複雑系工学研究者が始めたベンチャーは、オンラインストアで使用するリコメンドサービスを主に提供してきた。が、このリコメンデーションの仕組みを実店舗で実現できないかと、東芝テックと共同で"ロボットが案内をする"アパレルショップ"を始めた。Decoded Fashion Tokyo Summit 2015でお披露目され、来場者の注目の的になったそうだ。
"ロボットが案内をする"アパレルショップでは、Pepperが入口で客を出迎える。Pepperは客の全身をスキャンし、年齢、性別、服装などを判別。判別した情報を基に、店のおすすめ商品を胸のタブレットに表示する。
開発が進めば、客の過去の購買データを参照したり、おすすめを提案するための変数を増やして、より客の志向に沿った商品を表示してくれるようになるのだろう。
プログラムが自分を理解してくれて、よりよい購買体験ができるようになる、というのは素晴らしいことだ。
が、この志向に沿ったプログラムに対して、少し、違和感を感じてしまう。
不完全な脳の完全なコピー
極限まで人間の志向に沿うようになると、プログラムは人間の考え方、つまり脳を模倣しようとする。脳がまるっとプログラム化され、電子世界で再現可能になれば、今日、ふらっと立ち寄ったアパレルショップで客が何を買うかを予測するなど、たやすい。
いや…たやすいのか?
客は店に立ち寄る前に数えきれないほどの情報と接触する。目に入った看板、通りすがりの人の服装、信号待ちでスマホで見たニュース。あらゆる変数が、次の行動に影響する。目的の店に立ち寄る直前、他の店の商品に心奪われて、店に来た時には"まあ、とりあえず、見てるだけ"の状態になっているかもしれない。
そんな行動の"ブレ"も演算処理に含めても良いのだが、それってどうだろう。
人間は合理的に動かない。もし、人間が与えられた情報を全て理解し、完全に合理的に動く生き物であれば、行動経済学という学問は不要だっただろう。
行動経済学は、誤解を恐れずに言えば、人間って従来の経済学が想定していたよりもバカだよね、色んな影響を受けて経済活動するよね、ということを前提とする。人間は合理的に動かない。色々な変数の影響を受けて、割に合わない行動に出てしまう。
高度に発達した人工知能が、不完全な人間の脳に寄り添い、必死に提案するのは「演算能力の無駄遣いだ」と思ってしまう。
せめて、機械らしく
何かを買うために店にふらっと立ち寄った時には、二つの心理状態がある。"買うものが決まっている状態"と"買うものは決まっていないが何かを買いたい状態"だ。
前者の場合、提案されるまでもない。3mのUSBケーブルを買うために必要な情報は、陳列されている棚の場所だけである。
後者の場合、何かしらの提案を求めている。しかし、求めている提案は自分の志向の延長線上に無くても良い。全く新しい何かに出会うのも悪くない。ノートを買うために東急ハンズに立ち寄ったのに、はんだとはんだごてを買って帰ってもいいわけだ。
レコメンデーションのプログラムには、何か突拍子もないものを提案してほしいと思う。合理的ではない人間が、時に眉をひそめるようなモノを提案してほしい。高度な演算処理の結果、人間の志向とは遠く離れたところにあったとしても、それはとても面白いし、有意義だ。
人工知能にはずっと他人でいてほしい。他人の考え方で以て、人に接してほしい。不完全で不出来な人に対して、合理的で突拍子もない言葉で接してほしい。
著者のイメージは「月は無慈悲な夜の女王」のマイクだ。
「マン、本日の気温は5.7度。湿度70%RH。11時41分JR池袋駅発の山手線外回りに乗車し、降車駅から歩いて目的地まで行くと仮定した場合、87.34%の確立で雨に遭遇します。それなのになぜ、Tシャツ1枚で、傘も持たずに外出しようとしているのですか」
「てやんでぇバーロー。佐倉綾音の握手会に行くのに、ラジオのオリジナルTシャツを着ねえわけにはいかねえだろ」
「7年前の11月13日に購入した第三ボタンの無いベージュ色のダッフルコートを羽織っていき、会場で脱げばよいのでは」
「うっせえバカ。家から気合い入れていくんだよ家から」
「傘も持っていかないのですか」
「いらねえ」
「風邪をひきますよ」
「バカは風邪ひかねえんだよ」
「ああ、そうでしたね」
人工知能は機械らしいほうがいい。機械の立場から、人間に寄り添ってほしい。
そして、あくまで機械、あくまで他人だけれど、わずかに人間らしさを感じるような、そんな人工知能がいいな、と思ってしまうのだ。
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※9/29 ぎゃああ、人口って書いてました。直しました…。id:psneさん、ありがとうございます。