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ハッカソンで使える! 課題発見のプロセス

spread of postitsflic.krphoto by Ian Collins


ハッカソンやアイデアソン等のワークショップで一番最初にやることは、課題を見つけることだ。新しいWebサービスやアプリを開発するには、まずは、誰かが何か困っていることを見つけなければならない。


ハッカソンでは、取り組みチームに分かれた後、ホワイトボード、模造紙、付箋、ペンが与えられて、皆で課題出しのブレインストーミングする。


チームメンバーが、付箋とペンを片手に、うんうんと頭をひねる。自ら買って出た進行役が、必死に話題を振って、与えられたテーマに沿った課題を絞り出そうとする。


が、なかなか出ない。


テーマが広すぎる、抽象的過ぎる、馴染みが無い等、様々な理由で、会議は踊らない。 結果、議論が深まらないまま、時間だけが過ぎていき、ソリューションを考えたり、実際にソリューションをアプリとして開発する時間が圧迫されていく。


人間は制約によって想像力を増す生き物だ。大きさの決まったキャンバスには様々な構図やモチーフを思い描けるが、無限の大きさのキャンバスを与えられると、途方にくれる。


課題出しのブレインストーミングも同じで、テーマだけが決まっていても、なかなかアイデアを連想できないものである。


必要なのはチームがアイデアを出しやすくするための共通の認識、言い換えれば共通のフレームワークだ。そして、どんなフレームワークを採用すべきかを決定するプロセスが重要となる。


本記事では、課題出しブレインストーミングが捗らなかった時に役立つ、課題発見のプロセスを紹介する。

【目次】

1. ターゲットは誰か


そもそも誰のためのモノ・サービスを作ろうとしているのか。課題を考えるため、一番最初に決めるべきはこれである。


例えば、「個人」・「家族」・「組織」・「地域」といったところだ。「個人」といっても日本に住む人なのか、観光客なのか。「家族」は親世代なのか、さらに年配の世代なのか。そもそも、人ではない動物に利するモノ・サービスかもしれない。


ハッカソンのテーマに沿って、まずはターゲットを決めよう。議論はそこから始まる。


2. 戦場はどこか


モノ・サービスはどの領域で使用されるものなのか。どの分野に属するものなのか。


とはいえ、領域や分野という言葉は漠としている。領域や分野という言葉によって人が思い描くものは様々で、粒度も全く異なる。特定のフレームワークが無いと、議論が全く噛み合わない。


筆者が戦場を特定するフレームワークとして使えるなと思うのは、AppStoreのカテゴリだ。AppStoreを覗けば、「雑誌・新聞」、「エンターテイメント」、「仕事効率化」、「ソーシャルネットワーキング」といったカテゴリが並んでいる。AppStoreのカテゴリは網羅的だ。且つ、皆が普段使っているため、共通認識として採用しやすい。


とはいえ、皆が納得するのであれば、採用するフレームワークは何でも構わない。課題発見のプロセスでは、正しさを求める必要はない。皆が納得するフレームワークを採用し、議論を進めることが重要なのである。


フレームワークを眺めながら、テーマに適していると思われる戦場を選択しよう。


3. 固有の特徴は何か


ターゲット・戦場が決まれば、いよいよ課題を付箋に書いて…といきたいところだが、これでもまだ不十分だ。制約が足りず、議論が発散する可能性は残っている。


"2.戦場はどこか"のプロセスと同様に、ターゲット・戦場の組み合わせの固有の特徴を抽出し、さらに精緻なフレームワークを採用しよう。


たとえば、「外国人観光客」というターゲットと「雑誌・新聞」という組み合わせを選択したのであれば、「雑誌・新聞」を更に「Webメディア」・「フリーペーパー」・「観光ガイドブック」といった媒体のサブカテゴリに分けてもいい。または「グルメ」・「レジャー」・「アクティビティ」といった観光のサブカテゴリに分けてもいい。


サブカテゴリに分けていく過程で、議論は深まっているはずだ。既存のモノ・サービスも次々に連想されているに違いない。


精緻なフレームワークは適度な制約を作り、想像力をかきたてる。ここまでくれば、準備は万端だ。


4. フレームワークの決定と課題出し


3で採用したフレームワークに沿って、どんどん課題を出していこう。ターゲットが困っていることは何だろうか。既存のサービスは無いのか。それはなぜか。どんどん付箋に書いて、模造紙に貼っていこう。


フレームワークがしっかりと組まれていれば、議論が発散することはないはずだ。


唯一の懸念点は、そもそもターゲット・戦場の組み合わせがまずかったというケースだ。課題が存在しないか、既に課題が解決されている場合、ターゲット・戦場の組み合わせに固執するのは無意味だ。


課題発見において、こういう失敗はつきものだ。議論が深まらない限りは、そもそも課題が無かった、という真意に近づくことでもできない。


なので、なるべく早く1~3のプロセスをこなし、深い議論に到達することが重要だ。チームが集中すべきフレームワークが決まらず、呆けた状態で時を過ごす時間をなるべく減らし、トライアンドエラーを繰り返そう。


そして、これというフレームワークを見つけることが出来たら、あとは思う存分付箋を貼りまくればいい。皆が同じ方向を向いて議論をすれば、きっと会議は踊るし、「これは…!」という課題が見つかるはずだ。



※※※



世の中には、QCDだとか、4Pだとか、5フォースといった、様々なフレームワークがある。しかし、ハッカソンの課題出しでは、与えられるテーマが大きかったり、抽象的だったりするため、どんなフレームワークを適用したらよいか分からない、といった状態に陥る。


結果、議論がはかどらず、アイデアは煮詰まらず、ありきたりの課題、そしてありきたりのサービス・アプリに落ち着いてしまう。


重要なのは、議論のためのフレームワークの決定プロセスなのだ。


本記事で紹介した課題発見のプロセスを使えば、ハッカソンを連戦連勝できる……ことはないかもしれないが、チームメンバーが「アイデアを出し切った!」と思える議論ができると思う。


課題発見のプロセスを使って、踊るようなブレインストーミングができるよう、検討を祈る。