個人向けコンテンツ投資の未来
flic.kr photo by Andi Campbell-Jones
クラウドファンディングの普及により、個人向けコンテンツ投資が活気づいてきた。クラウドファンディングサイトMakuakeでは、片渕須直監督によるアニメーション映画が2,500万円を超える金額を調達したのをはじめとして、映画・ドラマ・漫画といったあらゆるジャンルのコンテンツが資金調達に成功している。製作委員会方式では呼び込むことのできなかった個人の資金が、ネット上のプラットフォームを通じ、コンテンツ産業に流れ始めた。
クラウドファンディングが更に身近なものになり、ひいては消費者の投資への意識が高まれば、コンテンツ投資の資金流入量も増えるだろう。少額投資非課税制度(NISA)開始に伴う投資信託への注目の高まり、不動産投資の興隆など、資金が投資に向かう大きな流れが出来始めている。リスクの小さな金融商品を皮切りに、やがて、投資資金はリスクの大きな商品に資金は向かう。その中でも、リスクは大きいが潜在的なリターンも大きいコンテンツに係る投資は大きな可能性を秘めている。
コンテンツ投資を特徴付ける二軸
コンテンツ投資を特徴付けるのはその投資先である。現在クラウドファンディングを通じて資金提供募っているのは、主にプロジェクト(作品)である。ここで集められた資金は特定の作品にのみ投じられる。一方、集められた資金を製作会社がプールし、任意のプロジェクトに投じるケースも考えられる。つまり、コーポレート単位の投資だ。資金提供者がある作品に対する期待・思い入れといった心理的要因により資金を拠出するのがプロジェクト単位の投資であれば、ある会社に対してブランド志向・忠誠心といった心理的要因により資金を拠出するのがコーポレート単位の投資といえよう。
コンテンツ投資を特徴付けるもう一つの軸は、投資に対する見返りだ。MakuakeやCAMPFIRE等、現在日本で主流の購入型と呼ばれるクラウドファンディングを通じて投資した場合、その見返りとして関連するグッズをもらえたり、制作サイドが主催するイベントに参加できる。金銭ではなく、こうしたファンの欲を満たす様々な見返り、リターンがある。対して、コンテンツに投資することで、コンテンツの製作・二次利用に係る様々な意思決定をコントロールしたいというのも投資をするインセンティブの一つだ。いうならば、資金提供する見返りとして、プロデューサーの役割を果たすことだ。最後に、無論、投資対象のコンテンツが大きなマネーをうみだした時に、その配当も大きなインセンティブである。
コンテンツ投資の投資先と見返りをそれぞれ縦・横軸に据え、現在普及している個人向けのコンテンツ投資サービスをマッピングすると以下のようになる。
プロジェクト単位のリターン(ファンの欲を満たす様々な見返り)を期待した投資は、Makuake・CAMPFIREといった所謂購入型クラウドファンディングで芽が出つつある。しかし、見ての通り、その他の領域については、まだ目立ったサービスは出てきていない。
発展途上のコンテンツ投資
コントロール・マネーを見返りとした投資を可能とするサービスは、全くといって良いほど普及していない。これらの見返りを提供するには株や利益配当請求権といった有価証券を取り扱わなければならず、これらのネット上での取引に関しては規制による妨げがある。コントロール・マネーといった見返りが期待されるコンテンツ投資は、未だ業界内(例えば製作・配給・広告・放送等の関連会社)に留まり、ネットを介して一般から募るといった事例は見かけない。(その昔、ときめもファンドというものがあったけれど)
規制に関しては、金融商品取引法改正により緩和されていく見込だ。昨年春に正立した『金融商品取引法等の一部を改正する法律』により、未上場株式のネットでの売買が可能となる。加えて、製作会社が個人との投資に係る契約整備すれば(例えば種類株式のように議決権的や配当金をフレキシブルに設定するなど)、新たなサービスが台頭するかもしれない。現在主流の購入型に加えて、投資型のクラウドファンディングがコンテンツ投資市場に新たな水を注ぐかもしれない。
リターンを見返りとしたコーポレート単位の投資についても、未だ目立ったサービスはない。とはいえ、会社ではなく個人に対するリターンを見返りとしたサービスとして、オンラインサロンサービスが確固たる地位を築きつつある。製作会社がこういったサービスに気づき、資金調達の手法として定額制のサロンサービスに手を伸ばせば、リターンを見返りにしたコーポレート投資が盛んになっていくだろう。
上述のマッピング表に将来台頭してくるであろうサービスをマッピングすると以下のようになる。
クラウドファンディングの普及によりコンテンツ投資に火がついたとはいえ、まだまだ発展途上であり、マネー流通量も限られている。製作会社が個人のマネーを主要な資金源として頼るには、市場が成熟しきっていない。
資金の供給元は一つでなくても良い。多ければ多いほど良い。コンテンツのマネタイズの手段として様々な販売方法・二次利用方法を検討するのと同様に、コンテンツ投資による資金調達が当たり前になれば、流動的なリスクマネーが増大し、コンテンツ産業全体が潤う。そのためには、上記のマッピング表を網羅するように、様々なサービスが普及しなければならない。
木に水を注ぐように、制作会社にマネーを注ぐ。そのマネーを注ぎ込むための仕組み(プラットフォーム)づくりは、まだ始まったばかりである。