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Gunosy上場に見る会社の資本政策

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ニュースアプリ「Gunosy」を運営するGunosyが4月にマザーズに上場することを発表した。想定株価1,520円で、591万株を公募。調達資金は広告宣伝費に充当するという。2013年末のKDDIからの増資で得た12億円をTVCM費に投入し、一気にアプリダウンロード数を伸ばしたが、今回のIPOで調達する額は48億円だ。SmartNews等の競合ニュースアプリを一気に突き放すため、広告戦略で勝負に出たと言える。


興味深いのは株主構成だ。創業者である吉田宏司・福島良典・関喜史の所有株式数の割合は、いずれも3.53%と低く、経営権を握るには厳しい。KDDI・ジャフコの2社がそれぞれ16.93%・10.16%を保有しているが、いずれも議決権のない優先株。既にGunosyを離れている木村新司の41.12%を含む残りの株の行方によって、経営陣がガラっと変わる。

会社は誰のものか


創業者にもかかわらず、経営権を握っていないってどういうことなの、という方に向けて、株と会社の経営権の関係について説明する。


株とは、会社の経営権を細分化し、複数人に割当可能にしたものである。会社が何をすべきかの意思決定をし、儲けが出ればそのあがりを得る。これらの権利を複数人で共有するためにできたのが株式会社という仕組みだ。


しかし、株主全員が会社に対して同様の影響力を保有しているわけではない。株の発行総数に対して株主が保有する割合に応じて、影響力が変動する。


株主は株の保有割合に応じて、株主総会(会社の意思決定機関)における議決権を与えられる。多くの株(つまり議決権)を保有していれば、自分の意思を容易に通すことができる。日本の会社法では、過半数の議決権を保有していれば、役員の選解任といった普通決議を単独で採択できため、経営に係るあらゆる意思決定を自由に行うことができる。


経営権を握れるかどうかの目安が過半数であるとすると、Gunosyのケースでは、創業者全員の株を足し合わせても10%程度にしかならないため、創業者の意思を経営に反映させにくい株主構成と言えよう。

増資と希薄化のバランス


創業者は、なるべく議決権を失うという事態を避けるために、資本政策を展開する。


例えば以下のような簡単な例を考えてみよう。創業者は二人。それぞれ100万円・30万円を出資して会社を始めた。創業者Aに1,000株・創業者Bに300株が割り当てられる。バリュエーション額は純資産額と同じ130万円だ。


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事業が軌道にのってきた。更なる成長のため、ベンチャーキャピタル(VC)Aに増資を依頼した。この時、まず実施するのはバリュエーション額(事業価値)を見積もることである。利益計画をシュミレーションし、果たしていくらほどのキャッシュを産み出す会社なのかを算定する。結果、当該会社の価値は3,000万円だと見積もられた。VCAに500株を割当し、バリュエーション額を発行済み株式数で割った1株当たりの株価はおよそ1万4千円に上昇。VCAの登場により創業者Aと創業者Bの割合は低下する(株が希薄化する)が、二人併せて過半数を維持している。


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会社は大きく成長し、上場が迫っている。この段になって、再度VCの増資を計画。バリュエーション額はこのころには5億円と見積もられた。VCBは200株を取得するのみであるが、このころにはその対価として1億円を注入しなければならない。創業者二人の持ち株比率にも大きく変動はない。注目すべきは、創業者二人が数百万円で得た株が、このころには数億円に化けていることだ。キャピタルゲインのリターンは膨大である。


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思い出してみよう。第1ラウンド・第2ラウンド共に、株価を決定するのはバリュエーション額である。このバリュエーション額が高ければ高いほど、1株当たりの値段が上昇し、同じ投資金額で得られる株式数が増える。例えば、第1ラウンドの時にバリュエーション額が1,000万円と見積もられてしまった場合、VCAの700万円近くの出資金額で過半数以上の株を抑えられてしまうことになる。(少し極端ではあるが。)


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このように、創業者の株が希薄化しないよう、バリュエーションに見合った増資を繰り返し、バランス良く資金を増やしていくのが、実権を握ったまま会社を経営するための資本政策である。 創業者は、時には借入などの代替案も考慮しながら、資金調達を計画しなければならない。この、決して簡単ではないバランスゲームの果てに、スタートアップ企業の大きな成長、そしてIPOといった大きなゲートが見えてくる。


スタートアップ企業等の増資・上場といった話題には、誰が多くのリターンを得て、誰が割りを食うのかのゴシップネタがつきものだ。Gunosyのケースでは40%近くを保有するエンジェル投資家がIPO時に保有株を売りに出して、数十億円を得る見込みだし、gumiのケースでは、IPOで創業家が売りに出した後に株価が下落し続け、上場ゴールなどと揶揄されている。


キャピタルゲインで得られるリターンはそれだけ膨大であり、羨望の的なのだ。


その華やかでキラキラとした世界の裏では、会社に片足を突っ込んだ人々が、誰に忠義を尽くし、誰を切り、誰を仲間に迎えるのかという謀を、株というカードをきりながら、めぐらしているのである。