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問題を解決するための銀の弾とは何か

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名刺の名前の横に"○○コンサルタント"と書くにあたって必要な資格は何もない。中小企業診断士や公認会計士といった、コンサルティング業務を行う上で役に立つ資格は多いが、どれも必須というわけではない。"副部長代理"みたいなもので、"コンサルタント"というのは何によっても保証されていない肩書きゆえ、その人の能力や地位を担保するものではない。


とはいえ、コンサルタントと名乗るからには、彼・彼女らが専門として取り扱う仕事が存在する。その仕事とは"企業が抱えている問題を解決する"ことだ。


マッキンゼーを世界一のコンサル会社へと成長させたマービン・バウワーは、"問題を解決する"ことを組織が提供可能なサービスに仕立て上げた。企業の悩みを"診断"し、"処方箋"を与え、時には"手術"を行う。医者が人間の病気を治すように、コンサルタントは企業の病気(=問題)を治すことができる。


マッキンゼー―――世界の経済・政治・軍事を動かす巨大コンサルティング・ファームの秘密


問題を解決する手法には特別な技術は伴わない。ビジネススクールを卒業してコンサル会社に入った1年目のコンサルタントが、一流企業に赴き、いっぱしの助言を行うのである。1年目のコンサルタントに専門的な知識など無い。あるのは考え方であり、手法であり、道具だ。

問題は何か


問題を解決するには、まずは問題を見つけなければならない。言葉遊びのようにも聞こえるが、この問題を見つけるというのが最も難しいプロセスである。企業の悩みとは、往々にして複雑で、こんがらがっている。悩みを話し始めた本人が、話がヒートアップするにつれ、脱線し、袋小路に入り、果たして何が悩みであったかを忘れてしまうことがある。


コンサルタントは絡み合った糸を丁寧にほどき、問題を発見する。問題はそこにあるのではなく、発見するものだ。


ドナルド・ゴースとジェラルド・ワインバーグは『ライト、ついていますか』で問題に対して明確な定義を与えている。問題とは望まれた事柄と認識された事柄の相違である。問題を発見するには、まずは今ある事柄とあるべき事柄の両方を認識しなければならない。企業内の様々な人にヒアリングをして、資料を探り、主観と客観を行き来しながら、今ある事柄とあるべき事柄を整理する。二つの事柄を重ね合わせて、ぴったりと合わなければ、あなたは問題を発見したのだ。


ライト、ついてますか―問題発見の人間学


ゴースとワインバーグは、問題の発見の重要性を説明するために、こんな話を紹介する。デッカイ市なる町に73階建てのビルがある。だが、このビルのエレベーターのサービスがひどい。各階にテナントが均等に入っていて、エレベーターの利用頻度も同様だ。朝と夕方には、エレベーターが地獄のように混雑し、利用者は永遠の時間を待たされる。


この問題(?)を解決する案は、例えば以下のようなものだ。

  • エレベーターをスピードアップする
  • 労働時間をずらしい、ラッシュアワーを平均化する
  • 各階止まりと急行にわける


人は問題を解決したいという要求が強い生き物で、何やら問題らしきものがあると、たちまちその解決方法に取り掛かってしまう。


しかし、ちょっと待ってほしい。このエレベーターに関する問題とは果たして何だろうか。つまり、誰が依頼主で、誰を幸せにしなければならないのか。例えばこんな解決案は考えられないだろうか。

  • 賃借料をあげて、入居者を減らしても、ビルの運営を可能にする。
  • 運動は身体に良いので、階段を使うよう利用者を説得する。
  • 建設会社を訴える。


問題とは望まれた事柄と認識された事柄の相違であるからして、何が望まれた事柄であるかを調べることは有意義である。この件に関して望まれた事柄とは、エレベーターの待ち時間を短くすることだ、と考えてしまうがそれだけだろうか。


この問題の唯一ではないが最良の解決策はエレベーターホールに鏡を設置することだった。エレベーターホールで待つ時間の暇つぶしの道具を与えることで、利用者に待ち時間が短いように感じさせる。 これは、前に挙げたどんな解決策よりも簡単で低コストだ。そして、この解決策が待ち時間問題に関する汎用的な処方箋だとすれば、スマホが普及した現代社会では、一昔前に比べて、問題自体の数が大幅に減少しているという仮説を立てることができる。果たしてどうだろうか。

なぜを繰り返す


問題を発見したら、その解決策を考える。往々にしてやってしまうのが、"○○ができない"という問題に対して、"○○ができるようにする"という解決策を与えてしまうことだ。日本では少子高齢化が進んでいるという問題に対して、出生率を上げる、というのは良い解決策だろうか。


発見した問題に対して、なぜそれが発生しているのかを分析しなければならない。トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一は1つの事象に対してなぜを5回繰り返してぶつけることで、真因を遡及する手法を紹介している。ある事象に対して、なぜの問いをきっかけに原因をたどっていくことで、真の原因が見えてくる。コンサルタントはこの手法を真因遡及分析とも呼ぶ。


トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして


コンサルタントが持つ銀の弾はこれだ。例え新米のコンサルタントでも、なぜを繰り返し、表面化する事象を裏付ける事実(ファクト)を具に集め、原因遡及のツリーをつくることで、悩みを抱える企業のベテラン社員たちに助言をできるようになる。


例えばとある工場の話をしよう。その工場の生産性が悪く、顧客の納期通りに商品を届けられていない。生産性を向上させるために、一度に多くの部品をバッチ処理できる最新の機械を導入したが、効果の程は見えない。ラインは休みなく動き、たくさんの商品を生産しているように見えるが、なぜだろう…。


この工場の問題を真因遡及分析をしてみると、以下のようなことが分かった。

  • 『生産性が上がらない』
  • →『工場の稼働率が最適化されていない』
  • →『機械の稼働率にばらつきがある』
  • →『他の機械に待ち時間を発生させる生産リードタイムが長い機械がある


ここまで遡及していけば、ボトルネックとなる機械がライン全体に待ち時間を発生させ、結果、生産性を悪化させているとの結論を得ることができる。解決の処方箋は、例えば、一度の処理量は少なくとも生産リードタイムが他の機械と均一になるように問題の機械を改良する(または新しく機械を購入する)ことであろう。


Boiler Plantflic.kr


コンサルタントは日々、このような問題を"診断"し、"処方箋"を与え、"手術"する。大事なことは、ライトをつけて、問題見つけだすこと。そして発見した問題に真因遡及の銀の弾を打ち込むこと。


銀の弾は特別な場所に行かなければ手に入らないものではない。数多ある書籍を読めば、その精製方法が詳しく載っている。マーヴィン・バウアーが生み出したコンサルティング手法は全ての人にひらかれている。マッキンゼーのノート術などと同じく、サービスの核たる手法もコモディティ化している。


あなたの会社の問題は何だろうか。そして、その真の原因は何であろうか。あなたは、それを解決するための銀の弾を持っている。