あたりまえを疑い革新をデザインする
Abstract BKI6 b | Flickr - Photo Sharing!
訳あってデザインについての書籍やWeb上の記事を読み漁っている。今日は、梅田グランフロントのCAFE Labに腰掛け、佐藤好彦の『デザインの教室』をひろげ、3色ボールペンで気持ち悪い落書きをしていたのだが、ふと、隣に座っていた2人組みの女性のうちの1人が蔑むような目つきでこちらを伺っているのに気づいた。ノマドワーキングとは、市井の人の偏見との戦いなのである。(違
著者のオシャレカフェエピソードではなく、デザインの話だ。
デザインとは斯くも幅広い対象に使われる言葉である。書籍・広告といった平面的なモノから、オブジェ・建物といった立体的なモノ、インフラ・都市といった巨大なモノに、キャリアパス・ライフスタイルといった見えないモノまで。あらゆるモノがデザインの対象となりうる。
モノをデザインするという行為は、あるがままのモノに対して、計画・構想をもとに規則を与え、その価値を創造することである。 自然のあるがままの状態、例えばロマネスコのフラクタル構造はデザインではない。デザインは、レイアウト・色・動きが統一された基準によって自然状態には無い形につくりかえる行為である。デザインを手掛ける人によって創造されたこの統一された基準を内的必然性という。
配置されたオブジェクト同士が関係しあって、互いにその配置の根拠となり、その配置であることが必然的な表現であるかのように見えることを「内的必然性」といいます。根拠は、自分で作り上げてよいのです。逆に言えば、根拠を作り上げるようにデザインすることが必要です。
出典: 佐藤好彦『デザインの教室』P.8
人を没入させる
内的必然性が強力な磁場を持った時、人はそのデザインに魅せられる。デザインに魅せられた人は、そこに施された基準を自らの考え・行動様式の軸に据える。デザインは人を没入させるのだ。
没入させるという要素はあらゆるプロダクト・サービスにとって最も重要である。機能、効果、満足度を如何にして最大化するか。それは優れたデザインによって達成される。アップルは、デザインの力によって世界中の人々のライフスタイルを革新し、感化し、支配した。ビジネスを行う如何なる組織も、アップルが牽引するデザインの波から免れることはできない。
デザインが没入させるということと、例えば洗脳するということは、コインの表裏に過ぎない。デザインは人を誘導し、思い通りに行動させる。洗脳もまた人を誘導し、思い通りに行動させる。二つの違いはと言えば、その行為が能動的か受動的かの違いに過ぎない。
ビジネスを行うにあたって、思い通りに操れる顧客は理想的である。予測の振れ幅が小さいほど、プロダクト・サービスの打率は上がり、収益も上がる。テレビ広告で、街頭広告で、SNSで、デザインを提供することで、顧客の心に入り込み、没入の種を植えつける。デザインは企業のささやかな悪意だ。
あたりまえを疑う
デザインがビジネスのメインストリームを席巻するようになった今、デザインの内的必然性によって掘り起こされる価値とは何か。"ワイアード・バイ・デザイン デザインをめぐる25の物語"と冠されたWIRED VOL.15で、同紙編集長の若林恵は、デザインの価値とは"あたりまえを疑う"と書いている。
この特集の焦点は、どうやらあたりまえを疑う方法としての「デザイン」といったあたりにありそうだ。「問いのデザイン」とでも言おうか。それは、あまりに素朴な疑問や、バカげた視点を見出すことで、見えなかった現実を見せてくれる実験のようなものだ。
出典: WIRED VOL.15 P.13
デザインは自然の中に根拠を創り出すことであった。自然を、今までなかった形に再定義し、人々に提供すること。若林のいうバカげたこととは、今までの基準では計り切れない新しい基準に他ならない。革新的なモノは往々にしてバカげたモノであるが、それがスタンダードに取って代われば、世間の評価はガラリと変わる。任天堂の横井軍平の"枯れた技術の水平思考"によって生み出されたバカげたおもちゃ達は、数兆円規模のマーケットを生み出すおもちゃを生み出す礎となった。
既存の基準を覆す価値を発掘することで、新しい基準が生まれる。新しい基準が既存の基準に取って代わる。この弁証法の車輪を回す御者は、あたりまえを疑い、自然状態にメスを入れて新しい根拠を生み出そうとする創造者、つまりデザイナーである。
デザインは特別な行為ではない。小さいモノ、巨大なモノ、見えるモノ、見えないモノ、あらゆるモノのあたりまえに綻びを見つけ、その糸をたどり、革新を模索する。そして、新しい根拠を形成する。ビジネスのあらゆる場面でデザインは求められる。
あなたはこの綻びを見つけられるだろうか。あるがままの状態を見出すことができるだろうか。
そして、新しく形成した根拠は魅力的で、多くの人を魅了できるだろうか。
革新をもたらすデザインを創造する。そのためには、デザインのことをもっと、今よりもずっと、知らなければならない。
※3/16追記: 題名を変えました