8.6秒でブームを終わらせないために
このあいだの落語ブームはいつだっただろうか。2005年に「タイガー&ドラゴン」があり、2007年に「ちりとてちん」があった。大阪の天満天神繁昌亭のこけら落としが2006年。全部10年近く前の話だ。
今では、ブームはすっかりおさまって、寄席ににわかファンがつめかけるといった話も聞かない。
立川談志が亡くなった時、桂三枝が文枝を襲名した時、大きな出来事の際に、ワッと小さな話題の波がやってくるが、すぐにその波は去っていく。
それでも、寄席では多くの落語家が高座に上がって古典や新作を演じ続けている。桂小三治は漢方薬をすすり、柳家喬太郎は「東京ホテトル音頭」を歌い、川柳川柳は「ガーコンガーコン」やり続けている。
ゆきて帰りし
「ラッスンゴレライ」で瞬く間に芸能界のスターダムをのし上がった8.6秒バズーカ―に逆風の風が吹き荒れている…らしい。ビートたけしと松本人志がテレビ番組内で批判的な意見を述べたそうだ。
「ラッスンゴレライ」が流行りだしたのは去年の暮れだったか。3ヶ月程しか経っていないのに、既にブームを折り返して逆風が…とニュースになる。その最大風速と通過速度は落語ブームの比ではない。
これはもう、ブログ記事がバズるのと同じだ。
いいねとリツイートとブクマが連鎖反応を起こして、幾何級数的に閲覧者が増える。
風船が膨らみ続ける。
でもいつか、風船が割れる。
あれだけ楽しかった(いや、楽しかったよ)「ちょ・ちょ・ちょ・ちょ・ちょっと待って、うぉにさーーん!」でくすりともしなくなる。そりゃそうだ。何度も見ればそうなる。ならないのは野々村議員の動画くらいだ。
持続可能な
そもそも、リズムネタは知っているけれど、8.6秒バズーカ―のことを何も知らない。関西弁の若い兄ちゃん? 他にネタは? どんな性格なの?
彼らのことを知ってファンになるには、数分のネタだけでは短すぎる。
ひな壇でしゃべって、ロケで熱湯風呂に入って、再現VTRで家族の感動の話をする。色々な場所で活躍する彼らを観たり聞いたりして、ようやく、もっと知りたい!と思うようになる。
彼らのことをもっと知れば、そして、「おもろい奴らやん」と思えば、ファンになる。
ブームが起こることとファンができることは違う。が、ブームがとおって肥えた地に、ファンは根付きやすいものだ。
ブームの時に落語の世界に足を突っ込んだ著者は、今ではすっかり、「老松」の笛が鳴り始めた途端に、古今亭志ん朝の鼻にかかる声が聞こえるようになった。
続けること
ブームはすぐに去る。波が押し寄せた後、すぐに凪になる。
でも、話題の火種を作り続ければ、波が何度も何度も押し寄せるようになる。ブームが再びやってくる。
ビートたけしはNHKの会見で、次のお笑いブームは"落語"だと言い切った。
江戸時代から数えて何度目かの落語ブームは、ビートたけしから始まるのかもしれない。
でも、ブームが起こるその場所は、数多くの落語家が毎日高座に上がり続けて、テレビやラジオで宣伝して、ブログやツイッターで書き続けた場所である。
話題の波が寄せては返すように、火種を作り続けてきたのだ。
8.6秒でブームを終わらせないために。