企業を統合するって大変だ
ファミリーマートとサークルKサンクスを傘下に持つユニー・ホールディングスが経営統合を協議しているという。両社が統合した場合、ローソンを抜き、セブン-イレブンに次ぐコンビニ業界2位のコンビニエンスストアチェーンとなる。ファミリーマート・am/pm、サークルK・サンクスと合併を経て雪だるま式に規模を拡大してきた両社だが、ここにきて雪だるまの胴体と頭が合体するようだ。
統合を志向する戦略的背景には小売りのオムニチャネル化(好きなモノを好きな場所で好きな時に購入できる仕組み)があると筆者は考えている。店舗・ECサイト、それらを支えるサプライチェーンまで統合してスケールメリットを最大化し、独走状態のセブン-イレブンの追撃をはかるのではないか。言い換えれば、数社が束にならなければ太刀打ちできないほど、セブン-イレブンの勢いは留まる所を知らない。
市場の競争を勝ち抜くため、複数の企業が統合する、といったケースは珍しいことではない。新しい事業を始める、既存事業の売上規模を拡大する、新しい技術を取得するといった目的を達成するには、自社の技術やノウハウを育てるよりも、"外科施術"を施して目的を達成するほうが手っ取り早い。
統合のメリットはある目的を最短のルートで達成できることであるが、そのデメリットは拒絶反応が起こる可能性があることだ。今まで異なる組織として活動していた企業が一つになるというのは一筋縄ではいかない。多くの企業は拒絶反応を最低限に抑えるため、PMI(Post Merger Integration)と呼ばれる統合に係る様々な作業のマネジメントをコンサルティング会社に委託する。
筆者は一度、自分が務めるコンサルティング会社が他のコンサルティング会社と統合するという経験をした。「他社の統合の手伝いをするくらいなんだから、自社の統合もお手の物でしょ?」という意見も聞こえてきそうなものだが、そう上手くも行かないものなのだ。
以下、筆者の経験も交えながら、企業が統合する際のトラブルのポイントを紹介する。
まずは全体像
企業が統合する場合、統合を指揮する部門横断的なワーキンググループが組成されることが多い。当該ワーキンググループが統合に当たってのタスクを網羅的に定義し、スケジュールに落とし込む。コンサルティング会社はここにお邪魔する。
統合前・統合後にこなさなればならないタスクは山のようにある。山のようにあるタスクをどうやって網羅的に洗い出しするか。フレームワークを用いて会社を層に分解すると、問題になりそうな箇所が明確になり、自然とタスクが見えてる。
どの層の統合が重要で困難かというのは、企業によって異なる。強いていえば、企業がどの層に強みがあるかが問題になる。例えば、少人数で独立採算性のグループを形成する経営手法(アメーバ経営)で成功を収めてきた企業が、"大人数の組織に再編成する"という案が持ち上がれば、おいそれと許容しないだろう。事業部門毎に最適化された情報システムを使用している企業が、標準化の名の下に"同一のシステムを導入する"という案が持ち上がれば、これもまた反対するだろう。
そういった起こりうる拒絶反応を事前に把握するためにも、層に分解したタスクの洗い出しは重要のである。
インフラの統合
インフラとは企業の情報システム、オフィス、機械などを指す。統合に際しては、大体、企業の貸借対照表の資産の金額がガサとっと足し算される。
資産が増えば規模が大きくなり、大胆な経営を図れるかというと、それは難しい。統合後に各社から得た資産を上手く活用できるかは別の問題である。資産が持つ機能が重複していた場合、いずれかの資産を生かして、いずれかの資産を手放さなさなければならない。その際、インフラの統合は目に見えて社員が実感できるため、取捨選択する際には様々なリスクを考慮しなければならない。
筆者が経験したのはオフィスの統合であった。両社が東京駅近くにオフィスを構えていたのだが、いずれのオフィスに移るにもスペースは無い。結局、新橋に新しいオフィスを借りて移転したが、これが拒絶反応の種であった。今まで東京駅直結の便利な場所に通っていたのが、新橋駅から遠い、雨の日に傘もささないといけない(いや、普通にさせよって話なんだが)場所に通わなければなくなり、社員が文句を言い始めた。統合から随分月日が経ったが、今でも「なんで不便なオフィスに引っ越しせなきゃならんかったんだ」、という愚痴は良く聞く。
業務の統合
会社には○○規定という文書がいくつもあって、この文書によって社員の日々の業務が定義されている。統合に際しては、この社内規定を変更して、皆が同じサイクルで、同じ職務分掌を基に業務を行う。
規定に書かれた業務もあるが、書かれていない業務もたくさんある。これは社の文化が色濃く出る場所であり、社員の"考え方"が幅を利かせる場所だ。
例えば、どれだけの頻度で上司に伺いを立てて、承認を得ないとダメかといった建前の作り方がある。今まで現場の裁量で仕事を行って組織で、上司の監督権が強化されれば、社員の不満は大きくなる。その上司が"口は出すが手は出さない"となれば最悪だ。
筆者の会社は外資系のイケイケな文化(細かい描写は割愛する)であったので、統合後に日系企業の独特な文化が入ってきたのには「ん?」っとなった。その一つが『みんな元気に挨拶しよう』という活動である。朝すれ違っても声もかけない殺伐とした社内に光を差し込むべく、あるパートナー(共同経営者)が先導して"社員に「おはよう」・「お疲れ様です」・「お先に失礼します」と言わせる"啓蒙活動を始めた。しばらく、社内報で活動の紹介・経過報告などが配信されていたが、いつまにか配信がなくなり、いつのまにか先導していたパートナーもいなくなった。
組織の統合
業務を実施するにあたって、極めて繊細な設計が求められる層であるが、これも難しい。刈り取っても刈り取ってもそこら中から生えてくる社内派閥を可能な限り抑制し、個別最適を無くし、全体最適を目指しましょう、とコンサルが口を酸っぱくしてクライアントに提言する内容であるが、なかなかどうしてうまくいかない。
大きな組織は往々にしてポストが埋め尽くされていて、ポストを待つ社員が列を成している。その需要を少しでも満たそうと、聞いたこともないポストが年々増えていくのだ。志高く始めた組織再編が、こういったお偉いさんフルーツバスケットに終始することも多い。
筆者の経験に関しては、年齢関係なくアップオアアウト(昇進するか、さもなくば辞めなさい)の文化を求めて入社したのに、統合後は日系企業さながらの年功序列の行列待つ状態に陥っているので、その辺が多いに不満である。
戦略の統合
志が同じだから統合したけれど、「一緒に住んでからようやく本当のあなたが分かったの」的なこともよくある話である。ファミマ・ユニーの統合も、打倒セブン-イレブンの目標に向けて、"急速な規模の拡大"という戦略の一致によって統合に向かっていくものと推測する。だが、戦略を練る経営層の思想が完全にシンクロすることなど無い。些細なすれ違いが大きな軋轢を生む。
第三者的な立場で物を言うコンサルティング会社が、両社の戦略の相違点をチェックし、最小公倍数を探す手伝いをする。イエスバット会話法(「そうですよねー!わかります!仰る通り!仰る通り…なんですがここのところが…」)を使った当たり障りのないコミュニケーションでウィンウィンな関係を築いていくのが優秀なコンサルタントである。
著者の会社は、統合直後から社長が、"部門間の協業を促進してシナジーを生む"という標語を掲げてきた。全社員が集まるあらゆる会議で"部門間の協業"・"シナジー"・"部門間の協業"・"シナジー"と言い続けてきたので、「もともと考え方が違う社員での協業なんてうまくいくはずがない」と考えていた社員も、次第に意識が変わってきた。実際に"部門間の協業わ促進してシナジーを生む"プロジェクトが多数立ち上がるようになった。この教訓は、戦略は口が酸っぱくなるくらいが丁度いい、ということである。
統合するって大変だ
企業が統合する際のトラブルのポイントを紹介してきたが、どうだろうか。二つ以上の異なる企業が一つになるというのは、想像以上に難しい。"拒絶反応"は"インフラ"から"戦略"まであらゆる層に潜んでいて、会社に大きな不利益をもたらす。この事態に陥る可能性を最低限に抑えるために、俯瞰的・網羅的な視点で統合後の姿を分析できるかが重要である。
会社の"外科手術"は珍しいものではない。新卒入社した企業が、自分が定年退職するまで同じ看板を掲げて続く、という可能性は極めて低い。統合されたり、また、買収したり、買収されたりするのが企業である。そのたびに、凹と凸の大きさが異なるパズルを削り、ぴったり当てはまるような最適解を探さなければならない。
コンサルティング会社は、そもそも中途採用の多い会社であり、多様なバックグラウンドをもった人が居る。統合をきっかけに多様性に拍車がかかり、異なる専門知識・経験をもった同僚たちから話を聞くことができた。
多様な人が一つの会社に集うこと。この一点は紛うことなく企業が統合するメリットである。
ファミマとユニーの統合は果たしてうまくいくのか。あらゆる層の統合がうまくいくのか。そして、店舗の名称はどこに落ち着くのか。
今後も両社の動向を見守っていきたい。