コンテンツの連続性を担保するものは何か
「スター・ウォーズ」の最新作が今年12月に公開される。2012年にルーカスフィルムを買収したウォルト・ディズニーは、最新作エピソード7を含む新作を3作製作する旨を発表している。SF映画に金字塔を打ち建てたスター・ウォーズシリーズが今後ディズニーにもたらす収益は計り知れない。
最新作では、スター・ウォーズの生みの親であるジョージ・ルーカスが一線を退き、映画「スタートレック」やドラマ「LOST」で有名な・J・J・エイブラムスが監督を努める。2012年に公開されたインタビュー動画では、ルーカスは監督業から身を引き、自身が立ち上げたルーカスフィルムが持つコンテンツの運営をディズニーに託すことを宣言した。
生みの親がメガホンを取らないシリーズの最新作。数えきれないほどの公式・非公式の二次創作を産み出してきたスター・ウォーズだが、正式な続編が創造者たるルーカスの手元を離れることになり、偉大なるコンテンツが新たな発展の可能性を模索し始めた。
連続性を担保するもの
スター・ウォーズをはじめ、コンテンツ産業では続編が制作されるケースが多い。市場で評価された作品は一定量のファンを既に獲得しているため、その続編が市場に受け入れられる可能性は極めて高い。将来の収益を予測しやすいため、投資家が積極的に資金を提供する。結果、ヒットした作品の二匹目のドジョウは後を絶たない。
続編といっても、前作と同じ登場人物が活躍する続編、同じ世界だが異なる登場人物が活躍する続編、タイトルのみが同じで全く異なる世界・登場人物が活躍する続編等色々ある。例えば、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」では、シリーズを通して"波紋"・"スタンド"といった共通するSF要素が登場するが、キャラクターやストーリーはシリーズ毎に一新される。RPGゲーム「ファイナルファンタジー」では、同じタイトルが冠されている各作品に共通する要素は限りなく少ない。製作会社であるスクエア・エニックスが最もリソースを投入して制作したRPGゲームに同じタイトルを冠しているといってもいい。
これだけ色々なパターンの続編が存在する中で、コンテンツが他のコンテンツの続編であること、連続した作品であることを担保するのは何であろうか。
この連続性を説明するために"ブランド"という概念を用いてみる。
ブランドとは"自己の商品を他の商品と区別するために、自己の商品に使用する名称や標章・銘柄・商標"である。つまり、コンテンツの製作者が他の商品より秀でていることを宣伝するために冠するものがブランドである。
ブランドは品質を保証する。監督が交代しても、スター・ウォーズの世界観を基にした作品のおもしろさが(賛否両論あれど)保証されているように、消費者はブランドが冠されたコンテンツを安心して選択できる。
ブランドを作るリソース
では、そのブランドはどのようにしてつくられるのか。そのリソースは何か。
ブランドは、まず、"創造者"(または原作者)によって生み出される。松本零士なくして「宇宙戦艦ヤマト」は無く、宮崎駿なくして「風の谷のナウシカ」は無い。全てのコンテンツは創造者から始まる。
しかし、創造者だけではコンテンツを作ることはできない。映画やテレビ放送、アニメといったコンテンツの制作は細かく分業されており、多くの専門の"スタッフ"によって支えられている。
また、コンテンツをつくるには"テクノロジー"が不可欠だ。迫力ある3D映像を作り出すには、それ相応のソフトが必要であるし、より現実に近い物理現象を再現しようとすれば、計算処理の速いコンピューターが必要である。
優れたコンテンツの連続体たるブランドは、優れた"創造者"、"スタッフ"、"テクノロジー"によってつくられる。これらのリソースは相互に補完しており、一つのリソースが欠けたとしても、他のリソースがその穴を埋めることが可能だ。ディズニーは、スター・ウォーズシリーズの"創造者"が退いても、ルーカスフィルムの"スタッフ"並びに"テクノロジー"がスター・ウォーズのブランドを支えられると判断したため、続編の制作を決定したのである。
ブランドが生み出す価値
では、様々なリソースによってつくられたブランドが生み出す価値とは何だろうか。何を以て品質を保証していると言えるのか。
一つは"世界観"である。スター・ウォーズシリーズのフォースの概念や、登場する架空の技術は広く大衆に浸透している。スター・ウォーズのファンは何より、フォースを駆使したジェダイ騎士達の戦いや、C3PO・R2D2といったオーバーテクノロジーで作られたロボットを愛している。ブランドはこれらの魅力的な世界観の提供を約束し、既存ファンに満足を与える。
また、"登場人物"がファンを惹きつけて止まないのは言うまでもない。シャーロック・ホームズという名前が冠されているだけで、傲慢でワガママで恐ろしいほどの知性を持った探偵の活躍を期待する。"登場人物"はしばしば、コンテンツの枠を飛び出して、二次創作等の副次的な世界で生き続ける。そして、コンテンツ外の世界で "登場人物"が生き続けることがブランドの持続的な成長につながる。
最後に"構造"である。物語は往々にして幾つかのパターンに類型化される。起承転結と呼ばれる有名な物語の構造はもとより、消費者を惹きつけるための演出は、あらゆる作品で複製利用されるために、構造化されている。例えば、NHKの朝の連続テレビ小説はより視聴者に受けやすいよう、時代によって「縛られた場所から出るヒロインの時代」、「女性が進出しきっていない職種で頑張るヒロインの時代」、「女性の自己実現」といったテーマを掲げてきたという。朝の連続テレビ小説というブランドが視聴者が期待する演出を構造化し、その品質を担保してきたのだ。
以上のリソースがブランドを形成し、そこから様々な価値を生み出すという概念を図に表すと、以下のようになる。
ブランドを適切に管理するために
以上の議論から、コンテンツの連続性はブランドによって担保される、との結論を得た。
あるコンテンツの続編を作る際には必ず、コンテンツの強みがブランドが生み出す価値がどこにあり、いずれの価値を踏襲して続編をすべきかを考慮しなければならない。ブランドが目指すべきところ、ブランドの成熟度といった条件によって、注力すべき箇所は異なるのだ。
また、これらの価値を最大化するためには、リソースの配分に配慮しなければならない。なぜなら、成熟しきったブランドのもとでは、ブランドを産み出した"創造者"すら不要になるのだから。
ブランドを適切に管理して収益を上げる技術は、あるブランドを産み出す技術と同様に困難である。
が、一度確率されたブランドは持続的且つ膨大な収益を上げる可能性があるのだ。
"創造者"のいないスター・ウォーズのブランドをもとに、何れの価値に着目し、リソースを配分するのか、ディズニーのブランド管理手腕が問われている。