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ゲーム業界をマーケティング視点で読み解く

コンテンツで観光を再起動(リブート)せよ!

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ドラマ『孤独のグルメ』を見ていた際に、ふと、見覚えのある店が映った。神奈川県新丸子にある喫茶店である。そこで、主人公の井之頭五郎がかき氷を食べている。新丸子には行ったことが無いし"はて"と思い記憶を辿ると、思い出した。『モヤモヤさま~ず2』でロケをしていた場所だ。孤独のグルメもモヤさまもテレビ東京の番組であり、同じ店でドラマ・町歩き番組を撮影したのである。


新丸子のこの店は、妙に印象深くて、五郎さんの食べていたかき氷を食べてみたいという衝動に駆られた。ある記憶は他の記憶と連関すると想起されやすくなるというが、この一件はまさしくそうであった。2つの番組を観たことで、脳のシナプスが強化されたのだ。


旅番組・街歩き番組を得意とするテレ東が取材・ロケハンコストを最小化するために、かような使い回しをしたと予想されるが(違ったらごめんなさい)、これが思わぬ効果をもたらした。一つのコンテンツを複数のメディアで同時展開することをメディアミックスというが、この店を軸にコンテンツがメディアミックスされたのである。 繰り返し複数のメディアで放送されることで、店の雰囲気・特徴が記憶に残りやすくなった。その結果、この店に行ってみたいという想いを喚起したのである。

町おこしの定番の聖地化は一発勝負


昨今、町おこしの一貫として、その町を舞台としたアニメの制作を奨励する聖地化が定番になった。『けいおん!』・『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』等、いくつもの人気アニメ作品が全国各地に聖地を創り出した。『ガールズ&パンツァー』の舞台となった茨城県大洗町では観光協会が特設サイトを作ってファンの巡礼を推奨している。ページに行けば、実際の地名が付記された登場場面ギャラリーやイベント情報を閲覧できる。


とはいえ、この巡礼化は失敗もあるという。『輪廻のラグランジェ』は千葉県鴨川市を舞台としたアニメだったが、町おこし先行でアニメ制作をしているとファンから批判が噴出した。



萌える「アニメ聖地巡礼」……“ムキ出し”まちおこしにファン猛反発、「対話」こそ成功の秘訣 (1/4) - ITmedia ニュース


聖地化は一つのアニメに全てを託してしまう。実績の無いアニメがけいおん!やあの花と同じようにヒットする確率はいかほどか。聖地化ありきで企画し、その土地の見どころ満載で、宣伝まがいの演出がたくさん入ったアニメが流行して聖地を創り出す確率は限りなく低い。銀行から車から映画に登場する何から何まで企業の宣伝が鼻につく『トランスフォーマー4』のように、ビジネスの論理をコンテンツに持ち込み、コンテンツが持つ世界観を破壊してしまうのが関の山である。


聖地化というのは宝くじにあたるようなもので、たまたま土地にゆかりのある才能あるクリエイターが、その土地を舞台にしたコンテンツを創造し、たまたまヒットする。それは、収益を期待する投資対象としてはリスクが大き過ぎる。

土地をプラットフォーム化する


筆者は、町おこしが目指すべきは、一発勝負の聖地化ではなく、プラットフォーム化であると考える。ある土地はあらゆるコンテンツの主役には(殆ど)なり得ない。あくまで裏方である。その裏方が果たすべき役割は、コンテンツに色を加える建物であり、人であり、自然であり、歴史である。これらの土地が持つ特徴をクリエイターが加工しやすい形でパッケージ化し、安価で提供する。そうすれば、クリエイターはそのパッケージを用いて自由に創作する。例えば、筆者がブログを書く時、記事のトップに画像を使用しているが、ある地域が無料で配布していたら、喜んで利用するだろう。拙ブログの宣伝効果などたかがしれているが、様々なブログで紹介されれば、否応にもその町の風景が目につく。メディアミックスの一つの形だ。


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筆者が印象に残っているのは川崎フロンターレのメディアミックス手法である。アニメ『天体戦士サンレッド』や銭湯、マスコット等、様々な異色のコラボレーションを実施し、ネットを中心に話題を呼んだ。川崎フロンターレの一つ一つはよくわからないけれど総合しておもしろいプロモーションは聖地化の町おこしの一歩先を行く。このプロモーションには川崎市観光協会も一枚かんでおり、近々、同人誌をも巻き込んでつくった"カワサキまるこ"なる萌えキャラを引っ提げて、コミケットスペシャルに出展するそうだ。この組み合わせとノリと勢いがすごい。(震え声)


もう一つ付け加えたいのは、コンテンツは最早国内だけのものではないということだ。春節により中国からの観光客が多数日本に訪れているが、ざっくりと伝統的な日本観光(東京タワーに法隆寺に奈良の大仏)をするのではなく、ピンポイントで土地を訪れる人も多い。ここに各地域が独自のプラットフォームを引っ提げて参入できる余地はたくさんある。香港人の知り合いは、『頭文字D』が大好きで、日本に来たらオートバックスと秋名山に行きたいと言っていたものである。


聖地化なんてギャンブルはもうやめたほうがいい。コンテンツを使って観光を再起動(リブート)するのに必要なのは、あらゆるメディアを駆使して、国内・海外の見込み客に訴えかけ、覚えてもらうこと。そうすれば、人はきっと、その町にやってくる。そして、漫画や雑誌やスマホを片手に巡礼してくれるはずだ。