キャッシュイズキング!~コンテンツ産業の資金繰り事情~
日本アカデミー賞やアカデミー賞外国語映画賞など、輝かしい評価を受けた映画『おくりびと』。その映画企画会社のセディックインターナショナルが去年、東京国税局から約10億円の所得隠しを指摘され、追徴課税を命じられた。セディックインターナショナルは既に納付を済ませて、脱税の罪を償ったようだが、おくりびとほどのヒット作を生み出した映画企画会社がなぜ、という印象を受けるニュースだ。
「資金繰りは常に厳しかった」 『おくりびと』所得隠し発覚 - 1年で365本ひたすら映画を観まくる日記
セディックインターナショナルの社長は脱税に至った動機について、例え一本のヒット作が出ても、次回・次々回作品に投じる資金を十分に確保できず、資金繰りが常に苦しかった旨を話している。64億円の興行収入があってなお、資金繰りに窮するコンテンツ産業の関連会社。ヒット作を生み出す打率が会社経営に大きく影響を及ぼすのは間違いないのだが、当記事ではもう少しテクニカルな視点、キャッシュ・フローの視点から資金繰りの問題を見てみることにしよう。
キャッシュイズキング
会社経営では手元にすぐに使えるキャッシュがどれだけあるかが会社の運命を左右する。計算上の利益が出ていても、手元にキャッシュが無ければ、オフィスの家賃は払えず、従業員に給料を払えない。帳簿上で利益が出ているにも関わらず会社が破たんする黒字倒産は珍しいものではない。
例えば、銀行口座にほんの少しの現金しか入っていない人が、1億円のピカソの絵を手に入れたとしても、すぐに現金化できず、結局今日の晩御飯も買えないなんてことになる。
換金性に乏しい資産は、長期的な利益をもたらしても、日々の運転資金には転じえないのだ。
アマゾン創業者のジェフベゾスも、利益率よりもフリーキャッシュフローを重視する経営で有名である。確保したフリーキャッシュフローを用いて、クラウドコンピューティング参入や新聞社買収など、大胆な事業展開を行ってきた。自分の突き詰めた考えを100%実現するため、デッドやエクイティに頼らない、自己資金でやりくりするアマゾンの経営は見事である。
長い回収サイクルがキャッシュを枯渇させる
話を戻して、コンテンツ産業である。先のセディックインターナショナルのように、スマッシュヒットを飛ばしても、まともにキャッシュを確保できない企業は多い。これは映画やアニメといったコンテンツに係る支出が発生する時期と収入が発生する時期に大きな差があることが一因である。
どれだけヒット確実と見込まれるコンテンツを作っても、マネーを回収できるのは制作・配給とプロセスを経て、最後の興行のところである。それまではひたすら身銭を切って、俳優の出演費用やロケ費用やCG制作外注費用を払い続けなければならない。これぱ油田を掘る資源開発のようなもので、よほど資金が潤沢に無い限りは、資金難に陥る可能性が高い。
例えば、エヴァンゲリオンで有名な株式会社ガイナックスは1999年に脱税が発覚し、追徴課税を命じられている。セディックインターナショナルと同様、資金が入らない長い製作期間を乗り切るために、可能な限りキャッシュを残したかったという動機が見え隠れする。
この教訓から、エヴァンゲリオンの著作権を引き継いだ株式会社カラーは映画を制作している期間に平行してライセンスビジネスを展開することで、資金難を乗り切っている。ライセンスビジネスは、二次利用商品の売り上げに連動する許諾使用料に加えて、最低保障金を請求する場合がある。このため、既存の商品(著作権)を用いて即時性のあるマネーを生み出すことができる。
最近、任天堂がライセンスビジネスに本格的に参戦する旨を発表していたが、キャッシュフローを改善し、更なる新事業展開を目論む任天堂の戦略であろう。
解決策は
コンテンツの回収プロセスが長いのは課題ではなく、所与の条件である。良い作品を作るためには、相応の期間が必要だからだ。
この長い期間にいかに資金をやりくりするか。即時性のある事業を展開して二毛作を図るか、運転資金として金融機関から定期的にマネーを借入するか。
コンテンツ関連会社の懐に、春はなかなか訪れない。