地獄の沙汰も金次第!?~民法大改正により中小企業経営者の個人保証は減少するのか~
この世になってはいけないものが二つある。犯罪者と連帯保証人である。
間違っても、『連帯保証人は、本契約に基づき借主が負担する一切の債務につき借主と連帯して保証し、その弁済の責めを負う。』などと書かれた契約書に迂闊に判子を押してはならない。自分が借りてもいない金で一生を棒に振るかもしれない。
漫画『ナニワ金融道』にこんな話がある。
スナックのママに入れ込んだしがないサラリーマン。毎夜スナックに通いつめては、カウンターに座り、色っぽいママを口説き続ける。
ある日、いつものようにカウンターで酒をあおっているが、ママが気落ちしている様子。他の客がいる中、サラリーマンに向かって、「今日は最後まで付き合って。」待ちに待ったアフターである。
店が終わり、二人は手をつないでホテルへ。
間接照明の薄暗い部屋の中、ママがドレスを脱ぎ、下着に手をかける。
白い肌が露わになる。
ゆっくりした動作で、髪を結んでいた留め具をはずと、長い髪がフワッと宙を舞う。
照明でまだらになったホテルの壁を背に、髪をほどいた裸の女がニッコリと笑い、
「ねえ、連帯保証人になってくださらない?」
これは怖い。ミナミの帝王で般若の顔をバックに「わしの経費は高いどおおおおッ!!」って言っているおっさんよりも怖い。人間の底無しの業を感じる。
なめくじ長屋奇考録 「このマンガがひどい!2014」第二夜!! スラッシャー あれもこれも、全部マンガなんですもの!
中小企業と個人保証
前置きはさておき。中小企業が金融機関から借り入れをする際、その名義は法人である。しかし、信用力の低い法人に対して人的担保を確保するため、金融機関は中小企業の経営者に対して連帯保証を要求する。企業が銀行と融資取引をする場合に、銀行が提示する銀行取引約定書と呼ばれる基本約定書を交わすのだが、ここに、個別の融資書類に個人の連帯保証をもらうことがうたわれる。
つまり、中小企業経営者並びにその家族は法人と連帯保証という鎖で繋がれた存在であるといえる。
無論、金融機関は貸倒に備えて充分な担保を取るために連帯保証を要求するのだが、この慣行が日本での起業文化の育成を妨げているとも言われている。エクイティでの調達なら良いが、多くの場合、ファイナンスの大部分を金融機関からの借入が占める。ジョブズやペゾス、ザッカ―バーグに憧れてベンチャー企業を立ち上げようと志しても、失敗したが最後、大八車に家財道具を積んで夜逃げするしかないとなると、一歩を踏み出せない。
中小企業の個人保証は減少するのか
上述の懸念を受けて、法務省は法改正に乗り出した。明日2月10日の法制審議会で議論を経て通常国会に提出される民法改正案は、経営者の個人保証並びに経営者以外の「公証人の前で『保証人になる意思がある』と宣言して公正証書を作成した人」を例外として認めるものの、個人保証の原則禁止をうたっている。つまり、
「娘さんおいくつでっか。25。はー、若いでんな。器量もええ。よっしゃ、お父さんを助ける思て、なんも考えんと、ここに判子おしなはれ。」
というような取引は今後法律に反することになるのである。きちっと公証役場に行き、第三者がいる中で公正証書を作成した場合にのみ連帯保証されるということで、不幸な借金地獄は今後減っていくだろう。
とはいえ、金融機関の悩みも深い。不良債権問題で融資を一気に引締めた途端に今度は貸し渋りが問題となり、無理やり中小企業に融資を迫られる。物的担保も業績も優良な企業も限りがあり、グレーな企業にまで手を伸ばすとなると、債務者に信用を積みましてもらうしかない。個人保証が完全に無くなることはない。
一つ根本的な解決策があるとしたら、リスクマネーの供給量が増えることである。預貯金や債権に寄った1,600兆円の個人資産の少しでも直接金融に投じられれば、銀行借り入れの割合が減り、個人保証も減っていく。今後、クラウドファンディングという新しい直接金融の仕組みが大きな役割を果たしていくだろう。
ナニワ金融道やミナミの帝王の話が過去になる日が、中小企業経営者にとっての安息の日である。