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ゲーム業界をマーケティング視点で読み解く

ラジオ番組の収益構造を考える、あるいは東芝サザエさんモデルから養豚場モデルへの転換

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電通が提供している"日本の広告費"によると、ラジオの広告収入は1,243億円。テレビの1兆7913億円、新聞の6,170億円、インターネットの9,381億円と比較すると、他のメディアよりラジオが二歩も三歩も後ろを歩いていることが分かる。聴取者は高齢化し、若者はスマホでYoutubeを見るようになった。ラジオを毎日聴く人は減り続け、ラジオ受信機が家庭から姿を消す。はたして、ラジオは死にゆくメディアなのだろうか。

株式会社ブシロードミュージックが運営するHiBiKi Radio Stationというインターネットラジオポータルサイトがある。いわゆる声優ラジオ・アニラジの番組を配信しているのだが、毎日10近くの番組を放送している。このブシロードミュージックの親会社、株式会社ブシロードは平成20年に3億円だった売上を平成26年に200億円以上(グループ連結)に伸ばしている怪物企業だ。トレーディングカードゲームの開発・販売から始めて、ゲームソフト、キャラクター商品、タレントマネジメントそしてインターネットラジオと、メディアミックスのインフラを一手に引き受けている。

ブシロードの成長、声優の人気と共に興隆するオタク系インターネットラジオを見るにつけ、ラジオ番組の収益構造が時代と共に変化をしているように思える。

 

東芝サザエさんモデル

最も典型的な収益モデルは、番組内容と関連性を持たない企業が、視聴者・聴取者が番組の合間に流れる広告を見て聞くことで会社の製品・サービスを認知することに期待して、金銭を支出するというものである。これを仮に東芝サザエさんモデルと呼ぼう。メディアミックスの手法がまだ認知されていなかった頃から、企業が認知度を上げるためにコンテンツのスポンサーを担ってきた。東芝も古くは、全自動卵割り機の隅にTOSHIBAと書いておくなどの発想は無かったのである。

 

インターネットラジオでも、王国民の一糸乱れぬコールで有名な田村ゆかりによる『田村ゆかりのいたずら黒うさぎ』は、キングレコード1社の提供で、東芝サザエさんモデル踏襲型といえる。番組内容と広告が有機的に結びつくことは無く、機械的に番組の合間にCMが差し込まれるのが常である。

 

SZBHモデル

断っておくと、2007年から2011年まで放送していたさよなら(S)絶望(ZB)放送(H)のことである。SZBHモデルでは、スポンサー企業はラジオ番組内でコンテンツに関連する情報を提供し、ラジオ番組並びに出演者にコンテンツの広告塔を担うことを期待する。今では毎期放送されるアニメの数だけラジオ番組が立ち上がるといっても過言ではあるまい。

 

コンテンツの広告塔故、番組は長続きはしない。1クールで終わるアニメであれば、アニメが終わる時に番組の役割も終わる。収益を早期に刈り取って、次々新しいコンテンツに併せた番組を提供する。言い方は悪いが、立ち上げたラジオ番組をどんどん使い捨てていくのが、このモデルだ。ただし、さよなら絶望放送は、アニメと共に立ち上がった番組であったが、アニメが終わっても原作漫画の広告塔として役割を変えて長期的に放送していた。

 

おぎやはぎがパーソナリティを務める『おぎやはぎのクルマびいき』もTOYOTAの広告塔を担う。収益構造はSZBHモデルだ。"車を売る"、だけではなく、"車を使った生活"までを提案する昨今のTOYOTAのイメージ戦略の一角と言える。

養豚場モデル

筆者が2015年現在最も楽しみにしているラジオである『洲崎西』。このリスナーが番組内でと呼ばれ、そのリスナーの集い(イベント)が養豚場ミーティングと呼ばれることから養豚場モデルと呼ぶことにする。スポンサーには頼らない、敬虔な…もといリスナーのラジオCD購入・グッズ購入・イベント参加の収入に期待する、ネットメディア特有の収益構造だ。

 

リスナーがラジオCDを購入すると、そこにはイベントチケットを購入する権利…ではなくその抽選権が同封されており、抽選に当選すればようやくチケットを購入できる。無事チケットを手に入れ、当日会場に足を運べば、そこにはラジオ番組にゆかりのあるグッズが売られ、その中にはラジオCDが。そしてそのラジオCDを購入すると、そこにはイベントチケットを購入する権利が…と、お布施の無限ループを生成することで、半永久的に収益を上げ続ける。このモデルであれば、企業の広告収入は発生せず、コンテンツ製作者と消費者の間でだけでマネーが循環する。

 

2011年に始まった 矢作紗友里 ・佐倉綾音の『Radio Cross』は、プロダクションI.Gが制作したドラマCDの広告塔として、SZBHモデルで始まったものの、パーソナリティ二人のトークが爆発的な人気になったため、ラジオ番組終了後に同パーソナリティー・同スタッフによる別番組『矢作・佐倉のちょっとお時間よろしいですか』が始まった。この番組は『洲崎西』と同様リスナーのお布施無限ループにより収益を上げる養豚場モデルといえる。

 

メディアミックスから独立コンテンツへ

そもそもコンテンツの広告塔として立ち上がるSZBHモデルのラジオ番組はもとより、金銭のみ支出する東芝サザエさんモデルのラジオ番組でも、番組制作に多くの制約が発生することは想像に難く無い。コンテンツイメージ・企業イメージに反する番組内容はスポンサー企業が首を縦に振らない。

 

対して、養豚場モデルのごとく、スポンサー企業が登場しない場合は、リスナーからの支持のみを頼りにしているため、収益は安定しないが、コンテンツが制約から解き放たれ、自由になる。自由であることが番組の面白さに必ずしも繋がるわけではないが、より多様性でより競争力の高いコンテンツが産まれる可能性は向上する。筆者はスポンサーから独立したラジオ番組を提供するシーサイドコミュニケーションズを応援したい。

 

ラジオは死にゆくメディアではないと思う。但し、その収益構造は大きく変化してきている。ネットを介して製作者と消費者の距離が無くなり、消費者のマネーが直接製作者に流れるようになった。これは既存の広告収入の統計には表れないが、間違いなくラジオ業界を潤すマネーである。このマネーの流れが活発になればなるほど、コンテンツは多様化し、面白さを産み出すカオスを生み出していくと、筆者は考える。

 

ちなみに、さよなら絶望放送にメールを送っていたが、一度も読まれたことは無かった。ただ、年始の特番の際に、ラジオネームが面白かった大賞で自分のラジオネームをパーソナリティーの神谷浩史に読まれたことが人生の唯一の自慢である。