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ゲーム業界をマーケティング視点で読み解く

なぜ綾波レイはコーヒーを手に微笑むのか、あるいは制作会社が儲けるたったひとつの冴えたやり方

月刊エヴァ5th 四号 (プレミアムムック)

 

昨年の夏のエヴァンゲリオン×セブンイレブンのコラボキャンペーンでは、ヒロインたちがレースクイーン姿を見せつけてくれたが、この冬のコラボキャンペーンでは、コーヒーを手にレイを真ん中にマリ・アスカ・カオル・シンジが囲み、男女混合リア充サークル感を見せつけてくれている。わー、カオル君が着てる迷彩柄のアウター、超オシャンティー(白目)

 


セブンイレブン 「エヴァンゲリオン2014」 - YouTube

 

新劇場版の公開と平行して、Santen・JINSと次々にコラボを打ち出してきたエヴァ。Schickでは満面の笑みで髭剃りを顔にあてるゲンドウというキャラ崩壊も甚だしいCMをキメてきたが、まあ20年近く前の作品である、ずっと寡黙だったお父さんのATフィールドがパージしても不思議ではない。

 

各社の動画・画像の諸所には"(C)カラー"と書かれている。これは使われている著作物が庵野秀明が代表取締役を務める株式会社カラーに帰属することを意味する。旧劇場版では角川書店・セガ等を含む製作委員会がクレジットされていたが、新劇場版ではカラーのみがクレジットされるようになった。カラーは、他社資金を頼らず、自社の資金を用いて新劇場版を製作し、且つ、配給・宣伝といった領域まで手掛けている。 

 

 

製作委員会方式の負の遺産

製作委員会とは、映画・テレビ番組・アニメ等のコンテンツを制作する際に、利害関係者が出資し、共同でコンテンツにまつわる制作・広告・配給等を手掛ける手法をいう。複数の利害関係者が関与することで、コンテンツ制作に必要な諸コストとリスクを分散できるメリットがある。

 

また、各利害関係者は窓口権と呼ばれる著作権利用に係る権利を得ることで、コンテンツから得る利益を最大化できる。例えば、旧劇場版の製作委員会に参加していた(つまり映画製作にあたっての資金を拠出していた)セガは、複数本のゲームを発売して収益を上げている。通常、著作物を利用してビジネスを行うには著作権者に対して使用許諾料を支払う必要があるが、窓口権を得ていればこれは不要である。

 

あたればデカいが、こけてもデカいコンテンツ業界にあって、興行収入等の直接的な収益は絶対的に信頼できるものではない。故に、製作委員会に参加する企業は窓口権から得られる収入に期待し、また、その観点からコンテンツを評価する。

 

全ての企業を満足させる100%のコンテンツ等、存在しない。各社の利益は時に反する。原案を作った制作会社の意図は、企業を巻き込んだ会議の数だけ、ずれていく。
製作委員会方式がコンテンツを保守的にする、といっても、あながち間違いではない。

 

 製作委員会の利点であったはずのリスク分散は、作品づくりの足かせともなりつつある。リスク分散は前述の通り、製作委員会方式が普及した大きな理由だ。ところが「リスクを最大限回避する」ために、冒険的な作品が生まれにくくなっている(このことは実写映画では、もっと如実に現れているはずだ)。製作委員会に参加する、どの企業も「どーんと出資して、どーんと稼ごう」なんてところはない。「ちょっとずつ出して、損をしないようにしよう」という思考なのだ。これでは、時代を変えるような新たな作品が生み出されるとは思えない。

「バクチを打てる人間がいなくなった......」アニメの製作委員会方式はもう限界なのか - Infoseek ニュース 

 

製作委員会方式のもう一つの問題は、そもそも原案を出している制作会社に見返りが少ないことだ。参加企業は、コンテンツが稼ぐ収益のうち、出資した割合でしか配当を得られない。仮に制作会社が充分な資金を調達できない場合、製作委員会への参加ではなく、業務委託という形で契約し、一定のサービス料だけを受け取るケースもある。これでは、制作会社はコンテンツがどれだけヒットしたところで、そのメリットを享受することができない。

 

著作権を保持して収益を産む

話を戻して、エヴァとカラーである。新劇場版よりエヴァの著作権を一手に引き受けるカラーは、このライセンスを最大限に生かしてビジネスを行っている。前述のコラボレーションに加えて、利益率の高いパチンコ産業で確固たる地位を築いたエヴァのパチンコ機種は既に9作を数える(加えてパチスロもある)。

 

目薬からコンビニ、パチンコまで、様々な製品・サービスを扱う企業とコラボレーションを図るカラーのフットワークは軽い。著作権が1社に集中しているため、あらゆる意思決定が速いのだ。

 

製作委員会方式をとっている場合、こうはいかない。

 

契約に定めが無い用途での二次利用にあたっては、委員会参加企業全てが合意しなければならない。付き合いのある企業の利益に反することもある。また、社内で承認を得るために気が遠くなるような稟議プロセスとゼーレの会議を通過しなければならない。利害関係者が増えれば増えるほど、二次利用の意思決定は幻のごとく立ち消える。

 

製作委員会方式の負の遺産を了解していたカラーは、制作の自由、そして著作権を用いたビジネスの拡大を図って、単独での制作に乗り出したのだろう。

 

使用許諾料で収益を得られれば、その資金を用いて、次回の映画を他社資本(製作委員会)に頼らずに制作することができる。財務状況が良くなれば、更なる事業拡大のために借入することもできる。

 

製作委員会に頼らず、著作権を保持したままコンテンツを制作することが、次のコンテンツを制作する資金を産み出す、たった一つの冴えたやりかたなのである。

 

『そんなこたーわかっとる、その最初の著作権を保持するコンテンツをつくるための金も無いんじゃ』と言われたら、まあ、頭が痛いんだけども…。