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99%のWebサービスは話題にもならずに消えていく

角川インターネット講座 (5) ネットコミュニティの設計と力 つながる私たちの時代

【目次】

注文の無い料理店


筆者の家からオフィスに行くまでの道にイタリア料理店ができた。3か月ほど前である。


全面白い壁。蛍光色に光る看板。シャンデリアのように反射する電灯。どっからみても、夜の店にしか見えない。


この装いでイタリア料理店はキツい。


案の定、夜にオフィスから帰宅する際に、横目で店内をのぞき込むと、客が誰もいない。すかすかの店内で、店員がバーに腰かけて談笑している。


1か月ほど経つと、店の外に店員が立つようになった。日本語がたどたどしい外国人だ。


「イラッシャイマセー。アイテマス。イラッシャイマセー」


新しく人を雇って、人通りの少ない道で、いたずらに声をあげるだけ。声を聞いて立ち止まる人などいない。


この店を覗くたびに、自分の作っているWebサービスを思い、気が滅入る。


自分のWebサービスも、こんな感じで、誰も使ってくれない、誰も訪れないサービスになったらどうしよう。人に声をかけても、見向きもされなかったらどうしよう。自分がこの店の前を通り過ぎていくように。


消えていくWebサービス


セカンドライフ』という3DCGの仮想空間プラットフォームが話題になったことがある。ユーザーは自分のアバターを作り、仮想空間で生活させる。多くの企業が『セカンドライフ』と契約し、この仮想空間に広告を出したり、自社の商品を登場させたりできる。アメリカ発のサービスは、鳴り物入りで日本に輸入され、多くのメディアが取り上げた。ユーザー数も爆発的に増えた。


しかし、3DCGが求めるPCスペックが高すぎることや、フェイスブック等のSNSツールの台頭によりコミュニケーションツールとしての利用価値が減ったなどの要因で、『セカンドライフ』のユーザー数は減り、コミュニティが過疎化していった。ローンチから10年以上たった現在もサービスは運営されていが、メディアに取り上げられることは少ない。


『ああ、そんなサービスもあったね』と覚えてもらっているサービスはまだ良い。99%のサービスは、話題にもならずに、ひっそりと消えていく。


筆者が参入しようとしているのはクラウドファンディングの分野にも、多くのサービスがあった。以下のサイトにまとめられているだけでも、180にものぼる。


cf-library.info


この中で常時更新されているサービスはごくわずかしかない。他は、話題にものぼらず、消えていったサービスである。


人と金と夢をつぎ込んでつくったサービスに、顧客は振り向かなかった。そこに市場は無かった。


冒頭のはてな近藤さん監修の本、『ネットコミュニティの設計と力』で、Hagexさんは、ネットコミュニティが流行るかどうかは、そこに"トキメキ"があるかどうかだといっている。ネットコミュニティに火がつくきっかけは、恋愛と同じで、惹きつける強烈な"ナニ"か、その"トキメキ"であると。


同じような機能、同じようなインターフェースでも、READYFORやMakuakeやCampfireには"トキメキ"があった。消えていったサービスには"トキメキ"が無かった。


とにかく市場に晒すしかない


サービスの立ち上げ期には、どうにかこうにか、人をひきつけなければならない。あらゆる手段を講じ、注目を集めなければならない。


映画『ソーシャルネットワーク』で、フェイスブックの顧問弁護士が


「立ち上げて2時間で2,200(twenty two hundred)のアクセスを集めたの?」


とザッカーバーグに聞くと、それに対して、


「2,200(twenty two hundred)じゃない。22,000(twenty two thousand)だ」


と、どや顔で答えるシーンがある。フェイスブック創設者たちがどうやって初期アクセスを集めたのかは劇中では描かれていないけれど、注目を集める仕掛けを講じたのだろう。そして何より、フェイスブックには"トキメキ"があった。フェイスブックの『同じ学校の気になるあの子とオンラインで仲良くなれる』機能が、大学生たちに恐ろしいまでに受け入れられた。


"トキメキ"を作る公式があればベンチャー経営者は苦労しないと思うが、そんなものはこの世に存在しない。経験豊富なシリアルアントレプレナーでも、必ず"トキメク"Webサービスの要素を定義できない。そんなものが提唱されていたら、恋愛工学くらい胡散臭い。


身もふたもないが、Webサービスの"トキメキ"は、世に出てみないと分からないのである。


イタリア料理店ができて、3か月が経った。


オフィスから帰る途中、店内を眺めると、バーにはカップルが、奥のテーブルにはスーツ姿のサラリーマンが席をとり、ワインを飲んでいる。店の外で声を上げていた店員は、忙しそうに食事を運んでいる。


大賑わいだ。


あの、ギラギラした、夜の店みたいなイタリア料理店は、流行りの店になった。3か月で。


ほんと、顧客が何に"トキメキ"を感じるかなんて、分かるわけもない。