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なぜ緊縮財政はダメなのか

シフト&ショック──次なる金融危機をいかに防ぐか


バーナンキ、スティグリッツ、ソロス等、名だたる経済学者・財界人が絶賛のコメントを寄せているマーティン・ウルフの「シフト&ショック」。2007年-2008年の金融危機を主軸に据え、なぜ金融危機が発生するのか、金融危機はどのような影響を与えるのか、そしてその対処策はあるのか、といったテーマを、膨大なデータを参照し、隙の無い論理・切り口で、整理し、解を模索する凄まじい本である。


ウルフはイギリス人ジャーナリスト。フィナンシャル・タイムズでチーフ・エコノミック・コメンテーターを務める、世界で最も影響力のあるジャーナリストの一人だ。


ウルフがこの本で首尾一貫して主張していることを、単純化を恐れずまとめれば、

・金融危機は、規制緩和とグローバルな資本移動によって必然的に発生した。
・金融危機直後の金融政策はそこそこ効果的だった。
・そのあとの緊縮財政はまずい。
ユーロ圏は終わってる。


こんなところだ。


この中で最も興味深かったのは、3つめの、危機後に各国が同調して進める緊縮財政に対するウルフの批判である。

【目次】

金融危機を受けて各国はどう動いたのか


2008年のリーマンショック直後、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が採用した量的緩和、そして国家予算を総動員した銀行システムの救済により、地に着くまで失墜してした民間の信用をなんとか食い止め、GDPを下支えした。危機直後、アメリカをはじめとする先進国は、財政赤字に陥りながらも、1929年の大恐慌時のパニックを(致命傷にならない程度に)防ぐことができた。


金融危機という乱気流に巻き込まれた各国は、金融システムの再生に向けて、構造改革(ドットフランク法等による組織再編)、ストレステスト、破たん処理制度等の新たな枠組み構築に着手。国際統一基準バーゼルIIを刷新し、銀行の自己資本比率を上げること、リスク管理を徹底すること等を盛り込んだバーゼルIIIを合意した。


ここまでは、色々問題はあるけれど、方向性としては間違っていなかった。危機直後は、国が何としても金融システム・市場を救済する姿勢をとらなければならない。これが、数々の金融危機に見舞われてきた人類の深い教訓である。そして、信用の膨張によって発生する金融危機が発生しない、またはその被害を最小限に食い止めるための金融システムの改革は急務だ。


しかし、ウルフのツッコミがさえわたるのは、2010年のG20トロント・サミット以降の各国による緊縮財政に対してである。


2010年、G20は以下のような共同宣言を発表する。

複数の主要国が同時に財政を調整すると、回復に悪影響を及ぼすリスクがある。また、必要な国で健全化が行われないと、信任が損なわれ、成長が阻害されるリスクもあるるこのバランスを考慮し、先進国は2013年までに少なくとも赤字を半減させ、2016年までに政府債務のGDP比率を安定化または低下させる財政計画にコミットした。


日本の消費税増税もこのサミットの影響下にある。また、今年に入り、デフォルトに陥りかけたギリシャに対してユーロ各国が財政緊縮策を迫ってきたことも記憶に新しい。


金融政策の限界


ウルフは緊縮財政をを真っ向から否定する。


QE1だの、黒田砲だの、ECBのOMT(国債買い入れプログラム)だの、マネタリーベースがジャブジャブ状態なのに、なぜGDPは成長路線のトレンドに復帰できないのか。


伝統的な金融政策の手が詰んでいる、というのが理由の一つだ。


各国は既に超低金利水準にあり、政策金利を下げて、マネタリーベースを刺激するという手をとることができない。フォワードガイダンスが市場に織り込まれてしまっているため、金利調整という手札が既に使えない状態だ。


金融政策そのものがリスクを生むこともある。ジャブジャブになったマネーにより、無責任な貸し出しと支出が横行し、新たなバブルを発生させてしまう。金融政策によってあふれたマネーが中国に流入し、不動産バブルを発生させた。そして、2015年の中国のバブル崩壊は目下、世界経済の最も大きな懸念材料だ。


財政政策はフリーランチ、かもしれない


金融政策と同様、財政政策は景気回復に大きな効果をもたらす。


財政乗数と呼ばれる政府支出一単位の変化に対する国民所得の変化の大きさは、ゼロ金利状態では、最小でも0.5、そして1を大きく上回る可能性のほうが高いというのが、経済学の定説となっている。


つまり、政府支出を増やせば、それを超えるリターンがほぼ確実なのだ。なぜ財政乗数が大きくなるかと言えば、金利が低い状態であるということは、民間の信用が低くなった状態と同義であり、そもそも借り入れして支出を増やそうという人がいない。また、政府支出が補完していた需要が無くなり、民間の信用力が全体的に低下しているためだ。


「国家は破綻する」のカーメン・ラインハートとケネス・ロゴフは公的債務の膨張がGDP成長率に悪影響を及ぼすとして、財政政策に反対の姿勢を見せていたが、そもそもラインハートとロゴフの論文は、コーディングエラーやデータの抜けがあり、集計方法も疎かだったため、公的債務の膨張がGDP成長率の低下の原因である、という主張は他の経済学者から否定されている。(関連はあるが、原因-結果の関係ではない)


金融危機後のニューディール政策よろしく、政府支出を大幅に拡大し、民間支出の不足を補填するような政策をとっていれば、GDP成長率はトレンドまで回復していたかもしれない、というのがウルフの主張だ。


債務の減らし方


とはいえ、日本では消費税が増税されているし、ギリシャでは金融支援の条件として、緊縮財政が加速することになった。多くの先進国、新興国で緊縮財政路線が進められている。


最も強くギリシャに緊縮財政を迫ったドイツは、第二次大戦後の賠償請求を戦勝国に待ってもらったり、インフレにより債務を再編したのに、そんなことは知らん、という体だ。


日本はというと、国の借金時計とかなんとか、1秒間にいくら負債が増えてます!、ギリシャ以上の負債を抱えているのでいつか破綻します!、というような言説が、緊縮財政路線への援護射撃になっている。


バブル崩壊後、ずーーっと低成長を続けてきたんだから、成長路線に戻れば黒字化に向かう、だとか、デフレを抜けてインフレになったら債務は目減りするよ、とかそういった議論は忘れられている。負債再編のためには「欲しがりません、勝つまでは」の国家総動員しかない、という体だ。


例えば、東西統一後に負債が膨らんでいたドイツがどのように負債を再編し、健全財政国になったかといえば、国内のものづくり産業の競争力を高め、対外輸出でマネーを稼ぎまくったおかげである。緊縮財政のおかげではない。


ギリシャのように、ユーロ圏に居る限り、金融政策も財政政策も満足に採用できず、経済大国に搾取され続ける、という詰んだ状態ではない日本では、緊縮財政以外の負債再編の手法が色々あるだろう。


政府支出を減らして(まず需要を減らして)、増税で民間の支出も圧迫して(GDPを低下させて)、それでも負債が再編できた暁にはみんなで成長をしましょう、というのは土台無理な話だ。


ケインズの言う通り、「長期的にはわれわれは死んでいる」。


負債が再編できた頃に、組織も設備も人間もいなくなっていれば、成長もへちまも無いのである。


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