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大阪でベンチャーやってます

ベンチャー/スタートアップ(と時々趣味)に関する記事を書くブログ

キューバとネットのない世界

Cuba!flic.kr photo by jordi.martorell


まだ筆者の家にネット回線が引かれていなかった頃、年上の友人が「ネットで公開している同人ゲームの設定資料を見せてあげよう」といって、Webページの構成ファイルを分割して複数のフロッピーディスクに保存し、家に持ってきてくれた。たしか、戦闘機乗りが主人公のゲームだったと思うが、内容はほとんど覚えていない。


フロッピーディスクに入った様々な構成ファイルを、パソコンのフォルダに格納していき、最後にindex.htmlを開くと、たくさんの画像が並んだページがパッと画面に広がり、感動した覚えがある。


著者の家にISDN回線が引かれるのは、それから2年ほど経った頃であった。


今では、ネットが無い生活など考えられない。何か調べるにも、誰かと連絡をとるのも、全てネットを介して行われる。あらゆる端末がネットにつながっている。


IoTといって従来通信を必要としなかったようなデバイスまで、ネットとつながる時代だ。


しかし、太平洋を越えた島国では、インターネットはごく限られた人、デバイスにしか開放されていない特別なものだ。ほとんどの人が"ネットのない世界"で暮らしている。


キューバである。


情報は記録メディアと共に


フィデル・カストロ、ラウル・カストロ政権下であらゆる情報が規制される中、キューバではネットは普及していない。ネットに接続できるのは、地元民が入ることもできないような高級ホテルか、インターネットカフェといった施設だけだ。前者は値段が高すぎるし、後者は大量の利用者が列をなすため、まともなネット環境とは言い難い。


カリブ海を挟んだ隣国ベネズエラが、キューバにあるただ一つの光ケーブルを建築したが、ケーブルの容量は限られているし、そもそも電気通信ネットワークが発達していないため、うまく活用されていない。


2014年に首都ハバナを訪れたGoogleのエリック・シュミットは「この場所は1990年代で時が止まっている」と評している。


www.theguardian.com


ネット環境に恵まれない中、キューバ人はあらゆる伝手を辿り、情報を手に入れる。"ネットのない世界"で最新の情報を模索する。


パクエト・セナマル(Paquete Semanal)というサービスは、最新の映画やテレビ番組、雑誌、アプリ、デジタルグッズなど、ネットで配信されているあらゆる情報を記録メディアに保存し、運び屋が記録メディアを顧客に手渡して、情報をコピーさせるサービスだ。


正体不明の謎のグループがコピー元の情報を作成しており、それが100人の運び屋にわたり、さらに1,000人にわたり、次から次へと拡散する。


パクエト・セナマルは爆発的に顧客を増やし、いまでは多くのキューバ人がこの記録メディアのコピーから情報を得ている。


情報を求める人間の本能


zoriah_photojournalist_war_photographer_cuba_havana_workers_jobs_labor_work__20090804_0681flic.krphoto by Zoriah


ソーシャルネットワークの普及によって、ネットを介したシェア、コミュニケーションの機能が注目されがちだが、ネットの原始的且つ最大の力は、情報を得られることだ。 Googleが「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」を使命に掲げるように、ネットを介して、ユーザーは今まで知らなかった情報を得て、学ぶことができる。


放っておいてもタイムラインに情報が流れてきて、"情報を取捨選択する"ようになった我々には想像し難いが、キューバ人は情報に飢えている。国の統制と貧しいインフラにより、情報が流通しないこの国で、人はそれでも情報を得るための様々な手を考えるのだ。


Forbeはパクエト・セナマルを"手渡しのインターネット"と評している。1テラバイトの情報が詰まった記録メディアは、キューバ人にとっての小さなインターネット空間であり、そこにアクセスすれば、あらゆる情報が手に入る。


もし、自分がキューバに暮らしていればどうだろうか。運び屋が持ってくる記録メディアが、どれだけ輝いて見えるだろうか。


情報を求める本能は、特に若い世代に強い。キューバのミレニアル世代は、ビジネスを行うライセンスが当局によって厳格に統制されている中、口コミ情報サービスをリリースしたり、オンラインマガジンを発行したりしている。


キューバ人の情報に対する飢えは、ネット常時接続が当たり前になった我々と比ではない。


アメリカとの国交が正常化し、さらに国の政策によりネット環境整備が急ピッチで進めば、"ネットのない世界"に血管が張り巡らされ、五臓六腑に血液が行き渡るようになる。


地場には、情報に飢えた若い奴が山ほどいる。


そんな彼・彼女らがスタートアッパーとなった時、我々が想像もつかないような、とんでもなく面白いサービスが始まるかもしれない。