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BABYMETALとフリービジネスモデル

「イジメ、ダメ、ゼッタイ」“ I


もうずっとBABYMETALを聞いていて、SU-METALの透き通る声と凛とした目を見ながら『あー虐げられたい』とため息をついている毎日である。演奏がいい。歌がいい。YUIMETALとMOAMETALのきれっきれのダンスもいい。で、やっぱりSU-METALの睨み付ける目がすっげえいい。


日本よりも海外での人気が著しいBABYMETALだが、そのきっかけはYouTubeだ。2011年にリリースされた『ド・キ・ド・キ☆モーニング』の動画が海外のメタル・キッズに取り上げられ、一気に火がついた。踊ってみた・歌ってみた・演奏してみたといった二次創作動画がオリジナルの人気を下支えし、日本が生んだアイドルとメタルのハイブリッドユニットは猛烈なスピードでユーザーの心をつかんだ。OK Goやジャスティン・ビーバーと同様に、BABYMETALの人気はWebから始まった。


www.youtube.com


BABYMETALのMVは、最新曲『Road of Resistance』等の一部の曲を除いて、すべてオフィシャルアカウントによりアップロードされている。楽曲を購入させるよう、MVにSEを挟んだりといった小細工のない、純粋な音源となり得るMVである。言い換えれば、動画にアクセスできる環境がある限り、楽曲を購入する必要はない。(ファンは別だ。ファンはどうあがいても購入する)


つまり、BABYMETALのプロデューサーは楽曲の販売収入よりも、Youtubeから得られるその他のメリットを選んだ。楽曲をフリーで配信することで得たもの、それは紛れもなく"認知"である。

フリーという選択


多くの人の音楽体験は、CDやiTunesプレイヤーからYoutube上の楽曲にシフトしている。彼・彼女らは楽曲に対して対価を支払わない。楽曲を所有せず、デバイスとWeb環境がある限り、オンデマンドで楽曲を消費する。これらのオンデマンドサービスの普及と音楽産業の市場規模の縮小の相関は顕著である。


楽曲を製作する企業が、販売収入を捨てオンデマンドサービスの広告収入を頼りにできるかと言えば、それも難しい。Youtubeの1PVあたり0.2円の広告収入で十分な収益を得るためには億を超えるPVが必要だ。Taylor SwiftやPharrell Williamsといったビックネームでようやく数億のPV。対してBABYMETALの動画は、大ヒットしているとはいえ、億再生に満たない。Spotifyは1PVあたりの単価が高いが、ユーザー数においてYoutubeと雲泥の差があるし、日本ではサービスを展開していない。


YouTubeという仕組みの上でマネタイズするにはハードルが高すぎる。


それでも、多くのMVがオフィシャルアカウントによりアップロードされる理由は、SNSとキュレーションサイトという装置による爆発的な情報の拡散効果にある。うまくWebの潮流に乗せることができれば、何千万円の販促費を投じるよりも多くの効果、アーティストにとって最も重要な認知という果実を得られる。


そもそも、音楽産業のマネタイズ手段は、楽曲の販売収入からライブチケットやグッズ販売収入に傾いている。Webが提供するいつでもどこでも得られる音楽体験に対して、今ここでしか得られない音楽体験には相応の対価が付く。BABYMETALの場合、いきなりワールドツアーから始まり、伝説のソニスフィアのライブを含めて大量のファンを動員、大成功を収めた。Webで認知度を高めてツアーでマネタイズする最も成功した例の一つであろう。


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Webが、Youtubeが、ニコニコ動画がある限り、音楽産業はフリーの波に立ち向かわなければならない。定額サービスや有料配信のみを許諾し、フリーにならないように徹底的に検閲をかけるという手もあるが、世界中のサーバーに複製されるデータ化した楽曲をどこまで追跡できるだろうか。ユーザーがフリーを欲する限り、複製はなくならない。クリス・アンダーセンが言うように、デジタル化するあらゆる産業はフリーの流れに逆らうことはできない。


これからの音楽はフリービジネスモデルを採用せざるを得ない。それは、楽曲をフリーで提供することにより認知という果実を手に入れ、販売収入に代わる手段でマネタイズすることを意味する。

二次利用マーケットが重要になる


2014年の日本の音楽ソフトの市場規模はおよそ2,500億円。(加えてライブ・グッズ販売等のほかの収入もある。)これを大きいとみるか小さいとみるか。


2,500億円の市場の中で、1人のアーティストがどれだけの収益をあげられるだろうか。フリーの波が販売収入をのみこみ、さらにVocaloid等を駆使して無料の音楽を配信するアマチュアが追い打ちをかける市場は真っ赤に染まっている。


2,500億円の市場を離れて、他の産業の市場に目を向けてみよう。市場規模マップを見れば、右下の音楽市場の箱がどれだけ小さいかが分かる。


限られた音楽ソフト市場でパイを食い尽くすか、それともコンテンツを引っ提げて潤沢なマネーがある他の産業に飛び込むか。つまりは、コンテンツの二次利用に活路を見出すか。


例えば、倖田來未やAKBといったアーティストを取り込むぱちんこ・パチスロ産業の市場規模は10兆円を超える。関連企業の数パーセントの予算を食いにいけば、音楽産業の市場とは比較にならない額のマネーが流入する。あらゆる産業に二次利用のビジネスチャンスが眠っている。これらの市場は、赤く染まりきらないほどに広大である。


音楽コンテンツの強みは圧倒的な認知にある。アーティストの知名度は様々なメディアに露出することで一般大衆へ急速に普及する。一般企業が数年・数十年かけて積み上げてきた認知をわずかな期間で優に追い越す。


音楽コンテンツの二次利用を許諾し、知的財産ビジネスを展開するということは、この積み上げた認知を売ることに他ならない。音楽コンテンツ、ひいてはアーティストにつみあがった認知を、一般消費者にリーチしたい企業は喉から手が出るほど欲しい。


楽曲をフリーにして、販売収入を捨ててまでつみあげた認知という名の資本は、放っておけば一銭にもならないが、二次利用のマーケットに投じればビジネスの種になる。BABYMETALのような世界的な認知を得たアーティストの資本価値は計り知れない。


デジタル化して全てがフリーになるWebは、直接的なマネーは生み出さないが、とてつもなく大きな資本を積み上げる豊かな土壌である。販売収入という古来からのビジネスモデルにこだわるのか、それともこの豊かな土壌を利用して認知という資本を積み上げ、活用するフリービジネスモデルにシフトするのか。


音楽産業をはじめ、コンテンツ産業全体は岐路に立っている。そして、現在進行形のBABYMETALの成功は、あらゆる企業のビジネスモデルの変革を促す可能性を秘めている。