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アニメ制作者の年収が低いのは制作会社が儲からないから

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文化庁の調査で、アニメの動画を担当する制作者の平均年収が約110万円にしかならないことをNHKが報じている。低い年収にも関わらず、拘束時間が長く、自給換算すると最低賃金に満たないのではとのブックマークコメントも見られる。


www3.nhk.or.jp


制作に関わるクリエイター達の収入がなぜ低いかと言えば、そもそも制作会社が儲からないからだ。制作会社は安定して稼げるビジネスモデルを持っていない。くっそ高いブルーレイBOXの収入も制作会社を潤さない。水源が枯れていれば、河口に水が届くはずもない。


では、なぜ制作会社が儲からないのか。理由は以下の通りだ。

理由1: 放っておいても儲かる仕組みがない


資本を増やし、資本が金を産む仕組みを作ること。従業員があくせく働かずとも、収益が上がる仕組みを作ること。企業が儲けるてっとり早い方法は放っておいても儲かる"金の成る木"を育てることだ。


アニメ制作会社であれば、コンテンツが"金の生る木"になる。テレビ放送や映画の興行といった収入の他に、コンテンツを基に他社と使用許諾契約を結べは、数百万円~億というライセンス料を受け取ることができる。テレビCM、グッズ展開、果てはぱちんこ・パチスロまで、二次利用の範囲は幅く広く、ライセンスを用いたビジネスのポテンシャルは大きい。


とはいえ、アニメ制作会社が独自にライセンスビジネスを展開できるかといえば、そういうわけにはいかない。そもそも日本のアニメ制作は、製作委員会と呼ばれる複数の関連企業が製作プロジェクトに出資し、その対価にコントール権並びに著作権を握るケースが多い。組成された製作委員会が業務委託として制作会社にコンテンツを発注する。ソフトウェア開発などと同様、制作会社は受託して制作したコンテンツの著作権を持つことができない。得られるのは業務委託費という対価のみである。


コンテンツを制作しているにも関わらず、"金の成る木"たるコンテンツを所有できない。テレビ局や広告会社等が組成する製作委員会に言われるがまま、馬車馬のように働き、得られるのは僅かな報酬ばかり。多くの制作会社は受託のジリ貧状態から抜け出すことができない。

理由2: 対価が安い


資本を多く持たない会社がすべてジリ貧かと言えば、そんなこともない。他業種に目を向けてみると、例えば弁護士事務所はサービスに対して高額な対価を請求している。優秀な弁護士率いる大手事務所には金に糸目を付けぬ顧客が殺到する。


クールジャパンの担い手として、日本の制作会社は付加価値の高いコンテンツを創り出すことができるにも関わらず、弁護士事務所とは異なり、高額な対価を請求することができない。


要因として考えられるのが、閉鎖されたビジネス環境だ。制作したコンテンツの行く先はテレビ放送または映画の興行である。テレビ放送であればテレビ局、映画であれば配給・広告・興行等の関連事業を生業とする企業から組成された製作委員会が発注元となる。不特定多数の一般人を相手取る弁護士と異なり、アニメ制作会社が対面する顔ぶれは作品ごとに代わり映えしない。需要家が少なく、且つ、海外の制作会社といった競合他社が増えてきている現状では、コンテンツの対価は買い叩かれてしまう。


例えば、スポーツがコンテンツとして凄まじく優秀なのは、言語・文化の壁が無く、全世界に向けて発信できる点だ。オリンピック等の世界的なイベントはもちろん、常時行われる世界的人気の高いプロリーグの放映権も徐々に値上がりしている。世界中の放送局が放映権を競いあうことで、値段は吊り上がる。言語・文化の壁が厚いアニメコンテンツではこううまくはいかないのである。

対策はあるのか


制作会社がライセンスビジネスを展開できない理由は、自己資金でコンテンツを製作できず、受託に頼らざるを得ない状況にある。これを打開するには、制作会社がデッド・エクイティを問わず資金調達を行い、自前でコンテンツを製作し、ライセンスビジネスの"もと"を手に入れなければならない。


例えばアメリカでは、制作会社が資金調達することは珍しいことではない。制作会社が資金調達して製作したコンテンツを放送局等に売り込む、というビジネスモデルがアメリカでは既に確立されている。日本でも制作会社による資金調達が一般化すれば、ビジネスモデルが刷新される見込みはある。


閉鎖されたビジネス環境については、既に解決されつつある。例えば、NetflixやHuluといった動画配信サイトが影響力を強めてきたことで、既存の放送・映画興行関連のプレイヤーの影響力が相対的に低下している。アニメはテレビ放送と平行してニコニコ動画での配信されるのが一般的になりつつある。コンテンツを扱う需要家が増えれば増えるほど、制作会社はより高額な対価を求め、交渉力を高めることができる。


※※※


若手制作者の年収の低さは異常だし、『動画職は入口兼修行』だとか『ミュージシャン、画家、役者、なんかでも同じ』だとか、そんな理屈は全くもって通らない。会社として従業員を雇っているからには適正な給料を支払うのは法人として当たり前のことであるし、それだけの対価を支払えないほど制作会社が追い詰められている業界の現状が異常なんである。


様々な外部要因があるとはいえ、今後ますます市場価値が高まるであろうアニメコンテンツを産みだすクリエイターを支えるためにも、制作会社が儲からない今のビジネスモデルは早急に変革されなければならない。


補足: 著作権ないし報酬請求権を手にするかたちで作品を作成することを"製作"、そうした権利が残らない形で作品を作成することを"制作"と使い分けてます。ごっちゃになっていたらご指摘ください。