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コンテンツ制作の対価をどのように受け取れば良いのか

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2月13日に開かれた『著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会』。音楽・映像の権利者団体や有識者が集まり、"クラウドサービスと著作権"・"クリエイターへの適切な対価還元"等のテーマについて審議を行った。以下、切り込み隊長が内容をまとめている。



私的録音録画補償金の行方が面白いことになっているようです(山本一郎) - 個人 - Yahoo!ニュース


注目したいのは"コンテンツの著作権者への適切な対価還元"のテーマについてだ。権利者団体は全ての私的複製に利用される機器・媒体・サービスを対象とした対価還元制度の創設を提言している。審議に同席した津田大介は、当該制度が採用された場合、あまりに多くの事業者に対して補償を求めることになり、且つ、複製に直接的に関与していない事業者をも支払義務者と見なしてしまう恐れがあり、現実的ではないと指摘している。


たしかに、権利団体が主張するように、ユーザーは複製されたコンテンツの氾濫により恩恵を受けているし、事業者は氾濫したコンテンツを利用して大きな収益を上げている一方、コンテンツの権利者は充分な対価を得られていない。私的に保存された音楽・動画のネット上への違法アップロードは後を絶たず、コンテンツ産業にとって脅威となっている。


とはいえ、音楽・映像がデータ化し、簡単に複製・共有が可能となった状況で、どこまでデータの保存先を追跡し、その対価を請求できるのだろうか。


データの保存され得る電子機器全てに網をかけ、補償料を賦課する一律負担制度が望ましいのだろうか。


切り込み隊長が指摘するように、クラウド化が進み、個人のストレージに音楽・映像データを保存するケースは減少している。ダウンロードしたmp4やwmvファイルを端末にインストールされたプレイヤーで作成するという文化はほとんど虫の息だ。この制度が5年先も有効である見込は薄い。


また、コンテンツの複製によって生まれたネット特有の文化に法整備を以て大きくメスを入れることにも疑念が残る。


Youtube・ニコニコ動画に私的録音録画によってアップロードされた違法のコンテンツと、著作権者により正式な形でアップロードされたコンテンツが入り乱れている状況が、ネット特有の文化を産み出す原動力になっているともいえる。個人が演奏したカバーソングや、MADと呼ばれる映像をマッシュアップした作品等、二次創作作品がオリジナルコンテンツの人気を下支えしている。


違法アップロード文化への法的介入は、濁った水を浄化するメリットはあるものの、そこに住んでいた多種多様な魚を絶滅させることにもなりかねない。

複雑な権利処理の問題


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じゃあ、このまま権利者が泣き寝入りして、コンテンツ制作の対価を受けられず、じり貧になっていけばいいのかというと、それは違う。


筆者は、補償制度の拡充といった既存のコンテンツ市場のまま利益を最大化する施策よりも、コンテンツ市場を変化・拡大させる施策の優先順位が高いと考える。


例えば、コンテンツに係る権利処理の問題だ。


コンテンツの様々な権利を適切に管理し、ビジネスに利用している事業者は少ない。音楽の場合、著作権管理のルールが確立され、権利者団体により権利料の配分が効率よく計算される仕組みがある。一方、映像はというと、こういった明確なルールは存在せず、プロデューサーが権利利用者と個別交渉を行う必要があるなど、事業者の裁量任せになっている。専門家に相談できるほどの資金があれば良いが、無ければ、せっかくのコンテンツ財産を充分に活用できない。


権利処理が重要になるのは、制作当初に想定の無かったビジネスにコンテンツを利用する場合である。将来的な二次利用まで見据えた権利に係る契約が締結されておらず、ビジネスチャンスが到来した際に迅速に意思決定できない。


例えばテレビ放送番組について、著作隣接権者である出演者とコンタクトが取れず、二次利用が進んでいないなどの事象も発生している。映像コンテンツ権利処理機構(aRma)のサイトに行くと、コンタクトが取れない権利者の一覧を閲覧できるが、これらの権利者との調整が終わらない限り、各コンテンツを二次利用できないのである。



一般社団法人 映像コンテンツ権利処理機構aRma:不明権利者一覧・掲載日順


製作委員会方式の弊害もある。プロデューサーという統括的な役職の人物が存在していても、実質的な機能は製作委員会に委任されており、二次利用にあたって交渉を行う際に製作委員会を構成する全ての権利者と調整を行わなければならない。これも、ビジネスの意思決定を遅らせる要因になっている。


結果、日本のコンテンツ二次利用の市場は充分に成熟しているとは言い難い。少し古いが、2009年度の日本のコンテンツ二次利用市場は115.4億ドルで、北米(アメリカ/カナダ)の924.5億米ドルと比べて見劣りする。魅力的なコンテンツ財産を多く持っているにも関わらず、その多くを持て余してしまっている。

コンテンツ制作の対価を最大化するために


政府は『知的財産推進計画2014』において、「著作物の公正な利用と適切な保護を調和させ、クラウドサービスや情報活用のサービス等の新たな産業の創出や拡大を促進するため、著作権の権利制限規定の見直しや円滑なライセンシング体制の構築等の制度の在り方について、文化審議会の議論を加速化させ、今年度のできる限り早期に結論を得て、必要な措置を講ずる。」と宣言しているが、これは喫緊の処置を要する。


処置の一つはコンテンツ財産を充分に活用するノウハウを権利者に浸透させることだ。監督・キャスト・脚本家・製作会社といった関係者と、将来のビジネスチャンスを見据えた契約条項を加えて契約締結する。配給においても、売り切りか・ライセンス契約か、最低保証(売上に比例しない固定の利用料)をどの程度とるかといった戦略を策定する等の知見が必要になる。


権利の窓口を一本化するスキームの浸透も有効だ。特別目的事業体(SPC)を設立して、コンテンツ財産をSPCに丸ごと譲渡し、ライセンス交渉の窓口を一本化する方法。信託会社と信託契約した上で、著作権を製作会社1社に残してライセンス交渉の窓口を一本化する方法等がある。(SPC・信託それぞれのスキームについては、別途記事をおこして詳細を説明する予定)


ともかく、製作委員会方式のように、複数関係者が投資に参加するという状態を維持した上で、二次利用をしやすいスキームを普及させれば、コンテンツ製作から得られる対価を最大化できるであろう。


コンテンツを産み出す事業者は二次利用に係るビジネスへの比重を高めてきている。例えば任天堂は自社のゲームに登場するキャラクターを用いたライセンス事業に力を入れていくことを明言している。直近では、ガンホー・メルセデスベンツとライセンス契約を交わし、使用許諾に係るビジネスを展開した。



任天堂社長:人気キャラのライセンス事業、新収益源に - 毎日新聞


複製による損失を補てんする制度の確立は重要である。しかし、ネット技術の発展によりコンテンツ産業は加速度的に進化している。現在想定されるモデルが数年後に形骸化するかもしれない。


そうであるならば、規制を強化することに注力するよりも、コンテンツという知的財産を用いたビジネスモデルを柔軟に設計していくための支援が重要ではないか、と筆者は考えている。