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【Fallout 4】スーパー・ミュータントにシバかれる日々

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 ゴールデンウィークのセールでいろんなタイトルが安かったので、「よーし、チャージ用のカードを大人買いして欲しかったゲームをダウンロードしまくるぜー!(/・ω・)/」と思い立ってヨドバシカメラで1万円分のカードを購入して、「よっしゃウォレットにチャージして早速ダウンロードやー!(/・ω・)/」といきり立ったら、欲しかった「Fallout 4」はCERO-Zでクレカでしか買えないだと…ッッ!?


 しゃあなくクレカで購入。ウォレットのチャージは手つかずに。もうすぐドラクエ出るし、溜まったチャージはそれに割り当てようかしら。


 発売から随分時間が経っているが「これだけはやらねば!」と思っていたゲーム。良い噂しか聞かないし、押井守が縛りプレイの連載してるし、昨今のゲームを語るにはこのタイトルを避けて通れまい。


 舞台はマサチューセッツ州ボストン。サンクチュアリヒルズに住む主人公は嫁、幼い子供と幸せに暮らしていたのだが、核戦争が勃発。アメリカ全土が火の海に。主人公達はVault-Tec社の地下シェルターにて難を逃れるが、スタッフに無理やり変な装置に押し込まれ、冬眠してしまう。その間に嫁は殺され、幼い子供はさらわれ、目覚めたのは210年後。地下シェルターから抜け出した主人公は核戦争によって荒廃したヒャッハーな世界でさらわれた子供を探す。


 いわゆるオープンワールドアクションRPG。しかし操作方法の説明が全然ないから、銃もろくに打てないし、特殊能力V.A.T.Sの仕様も良く分からんし、体力やべーからぶっ殺したゴキブリ食ったら放射能汚染されるし。


 序盤、爬虫類が巨大化した「デスクロー」に数十回やられて、難易度をハードからそっとノーマルに戻す。それでも全然勝てない。


 このゲーム、とにかく銃が全然当たらない。精度は銃の性能と主人公のスキルに依存する。どっちも低いとかすりもしない。もたもたしているうちにジョージ・ロメロがブチ切れるレベルでキビキビ動くゾンビ(a.k.a フェラル・グール)が距離をつめてきて、放射能汚染まみれの拳でパンチを繰り出してくる。近接攻撃に切り替えても、APが全然足りず、棒立ち常態でこときれる。


 幾度の死闘を乗り越え、戦闘にもようやく慣れ、V.A.T.Sと奴隷犬(a.k.a ドッグ・ミート)を駆使して戦えるようになってきたはいいものの、放射能汚染がひどい。ライフが全然回復しない。貧弱な防具も相まって、敵に捕捉されたら大体死ぬという事態に。放射能汚染という仕様に気付かず、川を泳ぎまくったのが原因である。


 序盤も序盤、ベッドフォード駅のグールの群れに絶望し「ライフが回復せーへんなんて人生詰んどるやないか」とコントローラーを投げ捨て、このゲームをを積んゲーにして、1か月くらいスマホドラクエ5に逃避していた。


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 (使えない助っ人外人、プレストン・ガービー。濁点が多い。敵が来ても動かない。特技は床に座ること)


 が、先述の押井守の連載が余りに面白かったため、熱が再燃。荒廃したボストンに復帰した。


 武器、防具を改造し始めてから、俄然楽しくなった。用途も分からずなんとなくジャンクを集めていたのだが、改造の材料に使えるとわかるとスカベンジャー業にも熱が入る。マグカップだろうが、卓上ファンだろうが、ブラシだろうが、消火器だろうが、手あたり次第ファストトラベルで持ち帰り、拠点で解体。武器・防具の肥やしにする。


 レベルも上がり、スキルも増えてきて、色んな武器・防具が作れるようになる。10mmピストルのレシーバーを変えてダメージ増やして、マガジンを大型にして弾数増やして、グリップを変えて…、いやあ楽しいなあ。


 改造でバキバキにした10mm、30口径、38口径、40口径、ショットガン、スナイパーライフル、近接武器をお気に入りからサッサッと切り替えながら戦闘し、レイダーの群れに火炎瓶を投げ込んで燃やす時の快感ったらない。これはやめられんわ。


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(「パンイチになれば皆ホトケである」(押井, 2017))


 武器も防具も強化されてきたものの、まだ苦戦するのは蜂、そしてスーパー・ミュータント。


 前者で厄介なのは、飛び回って照準が合わないのと、毒をまき散らすのと、集団で襲ってくること。厄介過ぎて手も足も出ない。


 昨今我が国では虫の侵略による被害が甚大で、壁に耳にあり障子にヒアリという様相を呈しておるのだが、300年後のボストンは比ではない。道中、ラッド・ローチに出会おうものなら、恐怖のノートを持ってあの世に旅立つ準備をしなければなるまい。


 蜂は道中見かけたら避けて歩けばいいだけなのだが、避けられないのはスーパー・ミュータントである。超人ハルクみたいな肌色で、筋肉粒々。人間のように知性があり、武器を駆使して戦う。いつも犬を連れており、犬と一緒に襲い掛かってくるマッド・マックス仕様(ミート君を連れている自分が言えたもんでもないが)。


 ミッションの先々でスーパー・ミュータントが控えており、総じてグールやレイダーより戦闘力が高い。屋内・屋外でも戦術巧み、オールマイティに人間ハントに勤しんでくる。


 最近はスーパー・ミュータントによる拠点への攻撃が増えてきており、菜園の貴重な入植者が死んでしまった。というか、自分の操るパワーアーマーで
スーパー・ミュータントにミニガンをぶっ放していたら、その横の入植者にコラテラルダメージしていた気がするが気のせいだろう。


 戦闘も楽しいが、資源が増えてきたし、そろそろ拠点を充実させたくなってきた。スターライト・ドライブインがだだっ広いし、開拓もしやすそうだ。敷地内の水たまりの放射能汚染がひどいが、いつか放射能汚染を克服するスキルを身に着けることを夢見て、大人のシルバニアファミリーを始めようと思う。


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アメリカTVドラマの凄さが分かるヴィンス・ギリガンの脚本力 (と『ベター・コール・ソウル』シーズン1第1話の脚本)

Netflixで『ベター・コール・ソウル』を観終わって、改めて「アメリカのドラマっていうかヴィンス・ギリガンすげー!」と思う。


ヴィンス・ギリガンは主にテレビドラマで活躍する監督。『X-ファイル』シリーズを手掛けた後、アメリカドラマ史に残る超ヒット作『ブレイキング・バッド』を製作した。『ブレイキング・バッド』は日本ではさほど知名度は無いが、アメリカでは全ての白人男性がドラマを視聴したと言われるほどの人気を博した。(Screen Junkies調べ)主人公の1人ジェシー・ピンクマンの口癖「Bitch」は若者の間で大流行し、仲が良い友達を呼ぶ時は「Buddy」でも「Bro」でも「Mate」でもなく、「Bitch」を使うのが一般的になった。(筆者の体験による)


『ベター・コール・ソウル』は『ブレイキング・バッド』に登場する悪徳弁護士ソウル・グッドマンを主役に据えたスピンオフだ。2015年からNetflixオリジナル作品として製作され、現在はシーズン2までリリース、シーズン3の製作も決定している。


『ブレイキング・バッド』ほどの人気は得てはいないものの、『ベター・コール・ソウル』もめちゃめちゃおもしろい。スピンオプ作品としての原作ファンへのサービスはほどほどに、新しい世界観、キャラクターを登場させ、中毒的に視聴者を引き付けるストーリーを作り出している。


主人公のジミー・マッギル(後にソウル・グッドマンに改名、本作では通じてジミー)は駆け出しの弁護士。事務所はネイルサロンの中に間借りした窮屈な部屋、ボロボロの車に乗り、公設弁護の仕事で日銭を稼いでいる。彼の兄はとても優秀な弁護士なのだが、心の病を患ってから電磁波を恐れるようになり、家から出られない。そんな兄を介護し、また、様々なアドバイスを受けながら、ジミーは弁護士として成り上がろうと悪戦苦闘する。


ジミーはずる賢く目的のためなら手段を選ばないアンチヒーローである。弁護士にも関わらず、デュープロセス(適正な手続きの必要性をうたった憲法の条項)を軽視する。嘘を言うし、違法行為も平気で行う。


だが、べらぼうに頭が切れる。相手を口先で丸め込み、思い通りに操ろうとする。彼は弁護士になる前は詐欺師として生計を立てていた。詐欺師としての異端能力が彼の弁護士としての優秀さ(?)につながっている。


デュープロセスを軽視するジミーの行いは同僚や兄や恋人によって、幾度となく非難される。彼は迷い、悩み、正しい道へと歩みだそうとする。が、うまく行かない。危機的な状況を打破するための妙案はいつも法の道から外れている。


ジミーは詐欺師まがいのやり方で成功を納めていく。が、やがて悪の道・悪の心に染まってしまい、マフィア御用達の悪徳弁護士へと成長してしまう。『ベター・コール・ソウル』はダース・ベイダーの誕生物語を描いたスター・ウォーズのプリクエルみたいな話だ。


ヴィンス・ギリガン(並びに共同執筆者)が書く脚本は本当に素晴らしい。正義と悪に揺れるジミーの複雑なパーソナリティを生み出すために、恐ろしいほどまでの密度で構成・シーン・会話を書いている。


無駄が無い。要素全てが物語を牽引する力を生み出している。


ありきたりじゃない。どこかで見たオチの読めるシーンなんてものはなくて、全てのシーンが緊張感に溢れていて、先が読めない。


説明的じゃない。作品のテーマを人物に喋らせるなんて野暮なことはしない。会話が生きている。


アメリカのドラマと言えば莫大な予算をかけた演出的要素に目が奪われがちではあるが、なんの、脚本が凄いんである。


『ベター・コール・ソウル』の白眉は、シーズン1第1話『Uno(日本題: 駆け出し)』。昨年の全米脚本家組合賞のエピソード賞を受賞したこのエピソードは、主人公が抱える複雑性なキャラクターを余すことなくあぶり出し、シーズンを通して視聴者を惹きつける通奏低音を創り出している。ストーリーテリングの手際が見事としか言いようがない。


…で、この『Uno』が素晴らしかったので、いわゆる逆箱(映像をもとに脚本を書くこと)をしてみた。ト書き、会話の他に、自分の学習のために、シーンがどのような意味を持つのかという分析も添えてみた。薄い灰色で※以下の部分が分析。横書きなので、ちょっと見難いが、ご容赦を。


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<主な登場人物>

・ジミー・マッギル - 弁護士
・マイク・エルマントラウト - 元警察官
・チャック・マッギル - HHMの創立者で、ジミーの兄
・キム・ウェクスラー - HHMで働く弁護士、ジミーの恋仲
・ハワード・ハムリン - HHMの創立者で、チャックのパートナー
・クレイグ・ケトルマン - 郡の出納役
・ベッツィ・ケトルマン - クレイグの妻
・トゥコ・サラマンカ - ギャング


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◆シナボン(アメリカのシナモンロール専門店)店内

ネブラスカ州にあるショッピングモール内のシナボンで働くジミー。厨房でシナモン・ロールをつくったり、テーブルを片づけたりする。冴えないオジさんの働く姿。

※弁護士としてのキャリアのあと、なんらかの理由で飲食店で働くことになった未来のジミーを描くシーン。不穏でむなしい未来が待っているという予兆。


◆ジミーの自宅

ジミー、家に帰り、酒をあおる。ネブラスカ州は雪。棚の奥から自分が出演する弁護士事務所のテレビコマーシャルが録画されたビデオテープを取り出し、繰り返し再生する。

※広い家に一人という状況を描き、不穏でむなしい未来を畳みかける。未来のシーンはここまで。


~タイトル~


◆ニューメキシコ州第2地方裁判所の法廷

裁判官、被告、検察官、傍聴人が待機している。裁判長が時計を確認した後、警備員に目配せをする。


◆同 トイレ

ジミー、トイレの中でシミュレーションをする。

ジミー「皆さん、どうぞ昔の自分を思い出して。もし19歳の頃自分の行動に責任を問われていたら?ハハハ。その頃の自分をよく思い返してみて。彼らに何て語り掛けますか?彼らはまだ19歳です。よって この3人の若者は昔のみなさんと同じで…」

警備員が合図をする。ジミーはシミュレーションを止めてトイレを出る

※トイレという場所にジミーを置き、カッコ悪さ、貧乏くささを際立たせる。直前まで法廷での振る舞いをシミュレーションするのは臆病さの現れ。皆を待たせてでも時間を守らないという点は、ルールを守らないキャラクターを強調する。


◆同 法廷

ジミー、法廷に入ってくるなり一気呵成に話し始める。

ジミー「皆さん 私と一緒に19歳の頃に戻ってみましょう。確か精力たっぷりで非常に血気盛ん、草は青々と生い茂り夏は永遠に続くと信じてた。ほら思い出したでしょ。だが本当のことを言えば、いかに未熟だったかも思い出したはず。私も19歳の時、自身の愚かな行動に責任を問われていたらと思うとゾッとしますよ。みなさんだって同じでしょう。そこでこの3人ですが、彼らはどうしようもないバカだ。(被告のほうに振り向いて)悪いな、だが事実だ。愚かなことをしたと認めますが、2つの事実を理解してほしい。まず第1に誰も傷つけていない。これは重要です。それから第2に検察側はこの案件を不法侵入と主張している。所有者のスピノーゾ氏は敷地の大部分は昼夜を問わず誰でも入れる状態だったと認めている。なのに"不法侵入?"少し無理があるのでは?私の知る限り、この3名はまあまあ優秀でした。だがある土曜日の夜体力を持て余しハメを外した。それだけで若者の未来を奪ってもいいのでしょうか。二度とと繰り返されることのない一時の過ちです。皆さんどうぞ寛大なご判断を」

ジミーが話し終わった後、検察官がテレビ台を移動させる。静かな法廷に台を移動する音が響く。ビデオを再生する。ビデオの中身は被告の三人が映る監視カメラの映像。三人ははしゃいでいる。

少年A「撮ってるか? 」

少年B「ちょっと待て」

少年C「おい静かにしろ。ワトソン先生の授業だ。よく見とけよ」

少年B「血が出ない」

少年C「抜いてあるんだよ」

少年B「すごいな保管場所は?」

少年C「よし、首の骨を通過」

少年B「ケニー来いよ」

少年A「撮ってるんだ」

腰を振る少年C。さらに、何かをちぎる音。

少年C「おい、ちょっと待て」

少年C、引きちぎった死体の生首を掲げる。

少年B「よしやったぜ。首の穴にナニを突っ込め」

少年C「お前が先にやれよ」

再び法廷の3人。ジミーと顔を見合わせる。

※ジミーの口のうまさと、公設弁護人として最底辺の案件を弁護させられているという悪戦苦闘ぶりを描くシーン。


◆同 受付

ジミー、受付でくってかかる。

ジミー「どういう計算だ?」

担当者「700ドルの弁護料」

ジミー「一人分じゃないか。3人で2100ドル。これでも破格の料金だ」

担当者「刑務所いきでしょ」

ジミー「知ったことか。生首とセックスしやがった」

担当者「1件につき700ドルって聞いてるでしょ?」

ジミー「ここの公設弁護の仕事は二度とやらないからな。サヨナラ!」

担当者「いい一日を」

ジミー立ち去る。

※給料が少なく困窮している。法廷でのスピーチとそれ以外の場所での口の悪を対比させ、二面性を強調する。


◆同 駐車場

ジミーが車に乗り込もうとすると、電話が鳴る。

ジミー「ジェームズ・マッギル法律事務所です。折り返し電話をどうも。あいにくマッギル氏は不在でして。すばらしい。実は事務所は壁の塗り替えでひどいニオイなので待ち合わせ場所をロヨラズ・カフェにしても?では四時と伝えます」

ジミー、車に乗り込む。

※事務所を複数人で運営しており、また、多忙であることを装うための演技・偽装シーン。ジミーの詐欺師的な資質を垣間見せる。


◆同 駐車場の料金所

ジミー、窓口に乗りつけ、シールが貼ってある台紙を渡す。座っているのはマイク。

マイク「3ドルです」

ジミー「無料だ。シールを見ろ」

マイク「5枚しかない。1枚足りない。3ドルだ」

ジミー「いいか。俺は1日タダなんだ。シールが何枚要るのか知らないが、俺は法廷で人を救ってたんだぞ」

マイク「それは立派だな。おかげで司法制度を信じられるよ。さあ3ドル払うかもう一枚もらうかしてくれ」

ジミー「なんて奴だ(サノバビッチ)。わかったよ。あんたの勝ちだ。下がってくれ。シールが足りないんだと。まったく申し訳ないね。彼は今月の優秀社員だ。メダルをやれ。怪しいものじゃない。ご安心を」

ジミー、車から降り、駐車場を去る。

※『ブレイキング・バッド』で活躍した殺し屋マイクの初登場シーン。ジミーとマイクの意外な出会いを描いている。また、ジミーのルールを守らない性格がにじみ出ている。


◆ロヨラズ・カフェ

テーブルにはジミーと、先ほど電話をしてきたクライアント夫婦、クレイグとベッツィーが座っている。

ベッツィ「なぜクレイグに弁護士が必要なの?だって夫の仕事ぶりは申し分ないわ」

クレイグ「僕はこだわりが強い」

ベッツィ「そうなのとてもお金にうるさくて。悪事など何も」

ジミー「もちろんご主人に不正行為はない。それは明白だ」不正を犯した人の代理人はゴメンだ。厄介ごとは望んでない」

皆が笑う。

ジミー「新聞で読んだだけだが、通常160万ドルものお金が役所からなくなると…」

クレイグ・ベッツィ「会計上の不一致だ」

ジミー「そうでしょう。だがこういう事態の場合警察はまず会計係を疑う。つまりそれは…。先回りして対処するのが得策だ」

クレイグ「弁護士を雇ったらかえって怪しい」

ジミー「実のところ、逮捕されると無実でも有罪に見える。無実で逮捕は珍しくない。取調室に連れていかれ、刑事に親友のような口調で言われる。"話して協力してくれよ"。"無実なら弁護士は必要ない"。それが失敗のもと。そうなった時に闘ってくれる存在が必要だ。弁護士だ。一種の保険だよ。使わずに済めばいいが未加入はあり得ない」

クレイグ「もしお願いするならどんな手続きを?」

ジミー「これが契約書になります。簡潔なのでどうぞよく目を通して。署名をもらえれば、さっそく今日から対処していきますよ」

ジミー、2人を眺める。クレイグがサインしそうになるが、ベッツィが止める。

ベッツィ「あなた、もう少し考えましょ」

クレイグ「そうだな。マッギルさん」

ベッツィ「考える時間を」

ジミー「ジミーでいいですよ。じっくりご検討を」

女「もう子供たちを迎えに行かないと」

クレイグ「ああそうだな。また連絡するよ。コーヒーをごちそうさま。助言も感謝してる」

ジミー「どういたしまして。(ポケットからマッチ箱を取り出して)これをどうぞ。私の電話番号はここに」

クレイグ「どうも」

クレイグとベッツィはマッチ箱を受け取り、足早に立ち去る。


※この先に展開されるジミーとクレイグ・ベッツィ―の因縁の端緒となる場面。


◆郊外、ジミーの車の中

ジミー、よそ見をしながら運転する。電話で話しをしている。

ジミー「番号は94560054-48960643。有効期限は2004年11月。重要なのは"高級感"だ。実は安価だが、超高級そうに見える花だけ使え。メッセージは"ベッツィとクレイグへ。正義にこだわるジェームズ・マッギルより"とマッギルのスペルは…。やり直して。未払い金なんてない」

ハンドルを切ったところで、フロントガラスに人がぶつかる。人をひいてしまう。

※表面的に繕うというジミーの性格が強調されている。未払い金のくだりで、困窮具合も垣間見られる。有効期限を読ませることで、舞台となっている時代をうまく伝えている。人をひくこのシーンが、三幕構成の第二幕へのトランジションとなる事件であり、シーズンを通してジミーが陥るあらゆる苦境の原因となる。


◆郊外

ジミー、車を出て被害者に近寄る。スケボーしていた被害者の兄が駆け寄る。手にはビデオカメラを持っている。

兄「なんてこった。大変だ。カルこっちを見ろ。大丈夫か?何か言え。この野郎。どこ見て運転してんだ」

ジミー「突然飛び出してきた」

兄「お前がぶつけた。よくも弟をひきやがって。証拠もある」

兄、ビデオを取り出す。

弟「事故だ。この人もわざとじゃない」

兄「骨折したのか。足が折れてるぞ。わき見運転した挙句、こいつの足を折りやがった。誰か警察を!」

ジミー「警察はよせ。頼むからやめてくれ」

兄「電話する」

ジミー「通報はしないでくれ」

兄「警察はダメか。じゃあどうやって償う?」

ジミー「分からない。どうすればいい?」

弟「さあね。500ドル」

ジミー「500ドル?」

ジミー、倒れている弟の足を蹴り飛ばす。

弟「何するんだ」

ジミー「やり口は見事だが完全に選ぶカモを間違ったな。俺は弁護士だ。こんなポンコツにのる奴に金があると思うのか?1回300ドルの娼婦でものせてたら別だが。フロントガラスの修理代を払え。小切手でもいいぞ」

兄、弟、その場から逃げ出す。

※あたりやの正体を暴く優秀さと、被害者の足を蹴り飛ばすゲスさが分かるシーン。物語の緊張感を一気に高めて、一気に落とす。中盤の物語を牽引する力を生み出している。


◆ネイルサロン

ネイルサロン店に入ってくるジミー。

ジミー「皆さんこんにちは。グエン、俺宛てに郵便はきてる?」

ジミー、グエンから郵便物を受け取る。

グエン「生首とヤった奴の弁護を?」

ジミー「新聞に?」

グエン「イトコに聞いたわ。なぜそんな奴らの弁護を?」

ジミー「ついてたんだ」

ジミー、キュウリ水を飲もうとする。

グエン「キュウリ水はお客様用よ」

ジミー、諦めてサロンの奥に引っ込む。

※しつこいくらいにルールを守らないジミーを描く。


◆ネイルサロン内のジミーのオフィス
ネイルサロン奥の狭いオフィスに入り、留守番電話を聞く。が、メッセージは無い。受け取った大量の請求書を眺める。その中から一通を取り出す。HHM(ハミルトン・ハミルトン・マッギル法律事務所)からの2万6千ドルの小切手。それを破り捨てる。

※みすぼらしいオフィス、大量の催促の請求書は困窮具合を表す。HHMからの小切手はHHM並びに兄チャックとの関係性を物語に引き込む小道具としての役割を果たしている。


◆HHM 駐車場

ゴミ箱がへこんでいる。ジミー、エレベーターに乗り込む。

※この時点では分からないが、ジミーが蹴り飛ばしてへこんだゴミ箱。HHMに対する不満を表す伏線。


◆同 ロビー

ジミー、受付で声をかける。

ジミー「ブレンダ元気そうだね。ダース・ベイダーは?」

ブレンダ「今は都合が悪いわ」

ジミー「南会議室だな」

ブレンダ「お待ちを」

ジミ「(受付から立ち去りながら)イヤだね。おや、キャプテン・ドレーク」

男「ジェームズ」

ジミー、南会議室に向かいながら、道行く人に声をかける。

ジミー「おしゃれだな。キース、カレン」

※ジミーがHHMに在籍していた過去を表すシーン。更に、SF作品のキャラクターから歴史の偉人まで、幅広い知識を持ち合わせていることも描いている。


◆同 南会議室

ジミー、急に会議室に入ってくる。

ジミー「君は自然の根本的な力に逆らっている。ミスター・ハムリン。気に入らないな」

受付(電話)「警備員を?」

キム「いいえ 大丈夫よ」

ジミー「ジャック、ネイト、アーロン」

ハワード「用件は?」

ジミー「このテーブルを見ると思い出してね。」

ジミー、持ってきた小切手を破り捨てる。

ジミー「この2万6000ドルは一体なんだ?」

ハワード「チャックへの金が望みだったろ」

ジミー「たった2万6000ドル?貝殻を渡して、先住民の土地を奪う気か」

ハワード「これからもっと入る。破らなきゃな」

ジミー「なぜチャックに送らない?」

ハワード「これが最善だ。彼は銀行に行けないからな。他の方法がいいか?」

ジミー「これでは解決しないぞ。チャックがこの会社を立ち上げた。ここの3分の1は彼の所有物だ。12脚ある椅子も4脚はチャックのもの。この5個ある照明の場合・・・。1.66個がチャックに属する。デニッシュは6個か?」

ハワード「全部やる」

ジミー「彼の分だけで結構。欲張りではないから。デニッシュ2個と1700万ドルでいい。およそその数字だ。いずれ監査が入って嗅ぎまわられる。彼の在籍を偽装するための小切手は送るな。彼はいないし戻らない。彼を正当に評価し、支払え」

ハワード「チャック本人の意思か?」

ジミー「最善の策だ」

ハワード「つまりここから退きたいと君に話したと?実に驚きだ」

ジミー「この1年彼にとって何が一番かを考えてきた」

ハワード「私もだ。それに彼が戻ってくると信じてる。それまで彼の部屋も秘書も残しておく。長期の有給休暇も受け入れる。大事な人だからね」

ジミー「陪審員はどう判断するかな。君は常識的で社会性もあるからウケがいいだろう。君は罪を償うべきだ!「ネットワーク」のセリフだ。まったく」

※ハワード、キム、チャックという新しい登場人物とジミーの関係性を一気に描くシーン。たとえ話や的外れなジョークも頻発され、ジミーのキャラクターを深めている。


◆同 廊下


ハワードがジミーを呼び止める。

ハワード「ジミー。今月分の書類だ。送料が浮くよ」

ジミー「聞いてたか?チャックはもういない。私が協力すると?彼を利用するな」

ハワード「ジミー。我々のような職種の人間は勝つことにとらわれてしまうことがある。心の声に気づかずね。チャックによろしく」

ハワード、立ち去り、階下の人物に声をかける。

ハワード:ベッツィとクレイグだね。

ジミー、階下を覗くと、ハワードとベッツィ・クレイグが話しをしている。ジミーはクライアントがHHMに取られたことを知る。

※ハワードのイヤミっぽい台詞、ベッツィ・クレイグの裏切りなど、ジミーだけではなく、人が表面的に話をしていることと腹に据えていることは大きく違うということが立て続けに描写される。


◆同 駐車場

エレベーターを降りたジミー、ゴミ箱を蹴り飛ばす。散々蹴り飛ばした後、エレベーターホールを出て、タバコを吸うキムに近づく。キムからタバコを奪い取り、吸う。

ジミー「なぁ」

キム「無理よ」

キム、タバコを捨てて立ち去る。ジミーが蹴り飛ばしたゴミ箱を元の場所に戻す。

※映像的な演出が白眉のシーン。加えて、二人の親しい関係性を僅かなアクションと台詞だけでほのめかす手際も見事。


◆チャックの家 庭

ジミー、車で乗り付ける。ポストから郵便物を取り出し、代わりに自分の時計、携帯電話、鍵を入れる。玄関口で静電気除去用の棒状のものに触り、部屋に入る。

※兄チャックが精神病を患い、電磁波を極端に嫌っていることを現すためのシーン。言葉ではなく、あくまでアクションで描く。


◆同 玄関

荷物を持って、中に入るジミー。家の中は真っ暗。

ジミー「チクショー」

チャック「電磁波は?」

ジミー「ああ、除去したよ」

ランプに火をつけ、保存用ケースに氷を入れる。

※チャックが、電機を一切使わず、前時代的な生活を送る様を描く。


◆同 リビング

タイプライターを打つチャック。

ジミー「ベーコンはやめよう。あれじゃ寄生虫が繁殖する」

チャック「いいところに」

チャックが打っていた紙をジミーに渡す。

ジミー「ヘルシンキ大学ブランズ・ボーグルゾン教授?」

チャック「翻訳してくれ」

ジミー「スウェーデン語に?」

チャック「フィンランド語だ」

ジミー「フィンランド語って一体…」

チャック「ニューメキシコ大学に行ってみろ」

ジミー「俺は開業するって知ってるだろ」

チャック「教授は淡水魚への電磁波の影響を研究している。おー、フィナンシャル・タイムズじゃないか」

ジミー「読みたいかと思って買った」

チャック「ありがとう。高かっただろう」

チャック、カネが入った缶をジミーに差し出す。

ジミー「いいよ」

チャック「自腹を切る必要はない。ほら、回収しろ」

ジミー、缶から金を取り出す。

ジミー「ありがとう。チャック、読むのをやめて少し話せるかな」

チャック「いいけど。(ランプをジミーの顔に寄せて)やつれてるぞ」

ジミー「平気だ。座ってくれ」

チャック「(座りながら)何かあったか」

ジミー「手放すべきだ。でないと…」

チャック「またその話か」

ジミー「納得いかないだろうが他に方法がない」

チャック「私はこのまま終わったりしないぞ」

ジミー「もちろん」

チャック「それなら心配ない。やってみせる。Ergo, a falsis principiis proficisci。意味は?何だ?」

ジミー「虚偽の原理について…」

チャック「根拠がもろいからお前の議論は崩壊するんだ」

チャック、机を離れてソファへ向かう。

ジミー「聞いてくれ」

チャック「分かった。論理的な結論を導こう。私の持ち分を清算すると事務所は解体するハメになる」

ジミー「彼らの問題だ」

チャック「顧客たちはどうなる?案件は空中分解し126人が職を失う。お前の郵便室の仲間は?助手もパラリーガルも皆失業する。キムの有望な経歴も終わりだ」

ジミー「ハムリンにはあの事務所を立ち上げた貸しがある」

チャック「私は手伝っただけ」

ジミー「手伝った?」

チャック「わずかな金のために事務所を犠牲に?」

ジミー「俺は行き詰ってる。でたらめな弁護士契約のおかげで。700ドルの公設弁護だ」

チャック「公設弁護の経験は非常に役に立つ」

ジミー「依頼人が3人いる案件ですべてのプロセスを引き受けた。結果得たのは700ドルのみ。血でも売るほうがマシさ」

チャック「他に頼れない者たちの弁護だ。金は関係ない」

ジミー「金こそが問題なんだ」

チャック「耐えることを学べ。近道などない。働きぶり次第で…」

ジミー「顧客は自然とついてくる。話すつもりはなかったが、あなたはもう一文無しなんだ。俺には2人分の生活を支えるのは無理だ」

チャック「何を言ってる?私を養えとは頼んでない」

ジミー「頼まれなくても最大限やってきたが。じきに路頭に迷うぞ。電磁波に満ちた外に放りだされることになるんだ。それでもまだ金は関係ないと言えるか」

チャック「それで興奮しているのか。ジミー、何も心配することはない。ほら」

ジミー「これは?」

チャック、ジミーに紙を渡す。

チャック「週に一回支払われる」

ジミー、紙を読んで。

ジミー「HHMから857ドルだって?」

チャック「断り切れなくてね。だが全額返金しよう。お前にも借りは返す」

ジミー、小切手が入っていた封筒が郵送されていないことに気づく。

ジミー「ハムリンがここに?」

チャック「私だって人に会う」

ジミー「携帯電話はポストに?」

チャック「当たり前だ」

ジミー「電磁波は?」

チャック「除去したさ」

ジミー「それで今後の職場復帰と金銭的な支援について二人で合意を?」

チャック「ずいぶん皮肉っぽいな」

ジミー「ハムリンに骨抜きにされている!」

チャック「私はよくなる!復帰してもう一度やりなおす!」

ジミー、暫く何も言えない。少し涙ぐみながら。

ジミー「ごめん、悪かった」

チャック「気にかけてくれているのは分かるが大局を見失うな」

ジミー「ああ」

チャック「そういえば…」

チャック、胸ポケットからカードを取り出す。

チャック「ハワードがこれを」

チャック、マッチ箱をジミーに渡す。

チャック「気にかけていた」

ジミー「何を…」

マッチ箱にはジェームズ・マッギルの名前。

チャック「確かに紛らわしい。HHMと事務所名がかぶっている」

ジミー「だが俺の名前だ」

チャック「それでもだ。例えばヴァンガード法律事務所とか、ジブラルタルとかはどうだ?」

ジミー「自分の名前を使うなと?ハワードの意向か?俺を訴えるのか?」

チャック「誰もケンカを望んでいない。新しいマッチの経費はハワードが出すさ。ビジネス上の礼儀の問題だ」

ジミー「チャック、どっちの味方なんだ?」

チャック「どちらでもない。だが、ジミー、もっと独自の道を築け。なぜ他人に便乗する」

※『ベター・コール・ソウル』の根幹を描く会話。チャックの論理的且つ面倒くさい話ぶり、顧客や金に関するジミーと真逆の思想などが描かれる。2人のつかず離れずの機微な関係性も垣間見られる。独自の道を築け、というアドバイスが、ジミーの成れの果てを知っている視聴者には皮肉に聞こえる。また、シーズンを観終わった後に、このシーンを見返すと、全く印象が変わるという仕掛けも施されている。


◆同 庭

ジミー、ポストから時計、携帯電話、鍵を取り出す。車に乗り、マッチ箱を取り出す。

ジミー「闘う気か、ハワード。いいだろう」

※ジミーが主体的になり、物語を動かし始めるための決意表明のシーン。


◆スケートボード場

あたり屋の兄弟。兄がビデオを撮り、その回りをすべる弟。

兄「いいぞ。もっと近づけよ。来い。その調子。いいぞ、マシだ」

弟「どうだ」

兄「見てみろ。もっとビシっと」

弟「一体何を?」

兄「何て言うか、わかるだろう?」

弟「さっぱり」

兄「スタイルとしてはありだな」

ジミー、兄弟に近づく。

ジミー「君たち。仕事だ」

兄弟はあたりを見回す。

兄「どうやって探した?」

ジミー「分かるよ、気味悪いだろ?」

兄弟、逃げようとする。

ジミー「待て、俺に30秒くれ。人生で最も有意義な30秒になるぞ」

ジミーと兄弟が共に座って話をする。

ジミー「ある若者の話をしよう。歳は君たちくらい。ここから遠く離れたイリノイ州シセロで暮らしていた。その町で彼は有名人だった。道を歩けば不良少年たちがハイタッチをしてくる。セクシーな女たちが彼に応えてもらおうと微笑みかける。彼は"スベリのジミー"と呼ばれ、皆が友達になりたがった」

兄「"スベリのジミー"?変な名前」

ジミー「いいか。シセロの冬の寒さは殺人的だ。ここで育った君らには想像もつかないだろう。鼻水が凍るほどの寒さだ。冷たい風がナイフのように肌に突き刺さる。シセロの人々は冬を恐れるが、ジミーは違った。夏は耐えるのみ。9月になりミシガン湖から冷たい風が吹き始めると、"すぐそこだ"と分かる。クリスマスか?収穫祭か?違う。ツルっと滑る季節だ。十分寒くなるとよく凍った道を探した。ミシガン通りなんかは最高だ。場所を定め、車が多くなるのを待ち、氷の上を歩いていけば…。ドン!凄まじい衝撃で人々が大勢集まった」

弟「金はもらったか?」

ジミー「もちろん、大成功だ。1回転んで6000ドル~8000ドルを稼いだ。1年中ビールやハッパに困らない」

兄「8000ドル?」

ジミー「その通り。君たちを見て可能性を感じた。スケボーなら一年中いける。君は転び方も上出来だしな。これまで1日に最高でいくら稼いだ?」

兄弟「630ドル」

ジミー「630ドルか。1回でか?」

弟「2回」

ジミー「1日に2回か。若いとはいえキツイ」

弟「まったくだ」

ジミー「頼みたい仕事がある。2000ドルだ」

兄「1回の当たりで2000ドル?」

ジミー「1回だ。いい勉強になるぞ」

※ジミーの詐欺師として過去を描くシーン。HHM(とハワード・ハムリン)に復讐するために手段を選ばないというジミーの決意も見て取れる。


◆クレイグ・ベッツィ家の前

車内から家を眺めるジミーと兄弟。

兄「いいボートだ」

ジミー「ああ、控えめでひっそりしてる。…と、車に集中しろ。車種は何だ?」

兄「ステーションワゴン?」

ジミー「1988年型のマーキュリー・セーブルのワゴン。しっかり頭に叩き込め」

弟「ちゃんと覚えたよ。マーキュリー・セーブルのワゴン」

ジミー「目を閉じろ。色は?」

兄弟「茶色」

ジミー「違う。サンダルウッドだ。ナンバーは何から始まる?」

兄弟「4だ」

ジミー「よし、金星をやろう」


◆とある郊外の十字路

ジミー「ベッツィ・ケトルマンは平日の2時25分から2時50分の間に子供を迎えに行くためにここを通る。どこで減速するかが重要だ。それがここのコーナーだ。(弟を指さして)彼女が減速し、右折した先から君が飛び出す。俺にしたように体当たりし最高の演技をするんだ。彼女が降りてきたら苦しみもだえろ。(兄を指さして)君は彼女に食ってかかりビビらせる。携帯を貸せ」

弟「人が多い」

ジミー「(携帯をいじりなから)目撃者が彼女へのプレッシャーになる。彼女が充分にあせったら。救急車を呼ぶと偽り、俺に電話を。(兄に電話を渡し)短縮ダイヤルの一番だ。すぐに駆けつける。偶然通りかかったように見せかけてね。(兄弟に振り向き)ここで重要なのは俺たちは初対面ということだ」

弟「分かった」

ジミー「俺はベッツィの救世主。(兄のほうへ向いて)俺たちは対立し君は俺を激しくなじる。暴力や髪をつかむのはナシだがあとは好きにやれ。怒鳴ったり威嚇したり。俺は冷静な態度ではぐらかす。そして彼女が感心したら君は引き下がる」

兄「金はいつ?」

ジミー「後で」

兄「後?」

ジミー「後だよ。俺が手に入れたら君たちに支払う。確認だ。車種は?」

弟「マーキュリー・セーブルのワゴン」

兄「赤ん坊のうんち色」

ジミー「俺を知っている?」

兄弟「いいや」

ジミー「いいぞ、やろう」

ジミー、二人の肩を叩く

※作戦を練るシーンだが、作戦が荒く、隙だらけのため、失敗の予感をほのめかしている。


◆クレイグ・ベッツィ家の前

ジミー、車の中でシミュレーションをする。

ジミー「ちょうどいいところに通りかかった。力になります。ベッツィと呼んでも?私はジェームズと。彼は心配ない。少し頭を打っただけだ。私が対処する。お金を取ったりしないので、ご安心を。先日の使い込みの件はまた改めて話しましょう。(ベッツィのワゴンが出発するのが見え、しゃがみながら)マズい」

ジミーは電話をかける。

ジミー「あと2分でそっちへ」

※法廷の時と同じようにシミュレーションをするジミーを描く。彼の臆病さのあらわれ。


◆とある郊外の十字路

兄「了解」

兄、弟に合図をして、ヘルメットをかぶる。カメラを構える。弟は準備体操をする。

ワゴンが十字路にさしかかる。曲がったところで、弟がそこに突っ込む。ワゴンのフロントガラスが割れる。弟が道路に投げ出される。

兄が近づく。

兄「大変だ。カル! こっちを見ろ。カル」

ワゴンから運転手は出てこない。

弟「(倒れたまま)彼女は何を?サンドイッチ食ってる?責任感がないのか」

ワゴンが急に走り出す。

兄「マジかよ。おい待てよ」

弟、何事もなかったかのように、立ち上がる。


◆クレイグ・ベッツィ家の前

ジミー、シミュレーションの続き。

ジミー「偶然ですね。近所をぐるっと回ってたんだ。まさか君が事故を」

時計を見て、ため息をつく。

ジミー「まだか?」

電話の着信履歴を確認する。と、電話が鳴る。

兄(電話)「逃げたぞ」

ジミー「何だって?」

兄(電話)「計画通りやったが女が逃げた」

ジミー「ひき逃げしたと?」

兄(電話)「ああ、走り去った」

ジミー「(頭をかかえながら)すぐ行くからそこにいろ」

兄(電話)「いや、彼女を追跡中だ」

<以降、電話中のジミーと兄を何度もカメラを切り替えて映す>


◆郊外

ジミー「どうやって」

兄弟、トラックにつかまり、スケートボードで道路を走る。

兄「俺たちのやり方さ」

ジミー「計画を変更する。今から俺が君たちの弁護士だ。学校で会おう」

兄「学校は通り過ぎた。ホアン・タボを左だ。ホリデー・パークに入る」

ジミー「尾行を続けて。目的地に着いても何もせずに俺を待て」

兄「偉そうに。何が"スベリのジミー"だ」

ジミー「ごちそうが目の前にあるんだ。ひき逃げは重罪だぞ」

兄「だから?」

ジミー「もっと金が入る」

兄「ごちそうだから大金が入るって」

弟「なら奴は不要だ」

兄、電話を切る。

ジミー「もしもし、君たち…。クソ。出てくれよ」

ジミー、もう一度電話をかける。

兄「やれ、やれ、やれ」

ジミー「ふざけんな」

ジミー、車を出す。


◆トゥコの家 庭

ワゴンが家に到着する。兄弟も遅れて到着する。

弟「ケンケンする」

兄「おいちょっと待て」

ワゴンから人が出てくる。出てきたのはベッツィではなく老婆。

弟「何考えてる。ひき逃げしやがって」

兄「弟を車でひいた」

老婆「(スペイン語で)何?」

弟「英語を話せ」

兄「警察を呼ぶ」

弟「絞られるぞ」

兄「ひき逃げだ。フロントガラスを見てみろ」

弟「あなたがやったんだ」

兄「払え」

老婆「(スペイン語で)イヤよ」

弟「金(デネーロ)を用意しろ」

老婆「金(デネーロ)?」

兄「相応の金(デネーロ)だ」

老婆「金(デネーロ)?」

兄「そうだ」

老婆、兄弟を招くような仕草。

兄「さあ行こう」

老婆が家に向かって歩き出す。兄弟もそれについていく。老婆はスペイン語で何かを叫んでいる。

弟「金のことを?」

兄「段差だ。気をつけろ」

老婆が中に入り、兄弟も続く。


◆郊外

ジミーは車を飛ばす。

ジミー「ホリデーパークってどこだよ。(シミュレーションを始める)ベッツィここで何を?ひき逃げは重罪だ。調停しますよ。私は彼らの両親の代理人だ。(我に返り)どこだ」


◆トゥコの家 庭

ジミー、家の前を通るさいに、ワゴンを見つけ、急ブレーキで止まる。横づけし、車から降り、家の回りを確認する。フロントガラスが割れたワゴンを見つける。

ドアをノックする。が、返事はない。窓をのぞき込み、人がいるかを確認する。

もう一度ドアをノックする。

ジミー「開けろ、裁判所からだ。命令だ。開けろ」

ドアが開く。

ジミー「こんにちは…」

中から出てきた人物に、唐突に銃を突きつけられる。そのまま家に引きずり込まれる。

トゥコがドアから出てきて、回りを見回す。


~エンドクレジット~


※最後の計画実行のシークエンスは、スピーディーに会話とカメラを切り替え、クライマックスの緊張感を高めている。更に、英語をしゃべれない老婆と頭の悪い兄弟のディスコミュニケーションで計画が思わぬ方向に向かっていることを強調し、最後に前作『ブレイキング・バッド』で活躍した非情なギャングトゥコを登場させることで、物語のボルテージを一気に上げる。ヴィンス・ギリガン得意の次のエピソードに進ませるための驚異的なヒキ。

ピクサーが『トイ・ストーリー』をつくるまで

ピクサー 早すぎた天才たちの大逆転劇 (ハヤカワ文庫NF)


ピクサーは凄い。本当に凄い。毎回毎回、オリジナルで品質の高い長編アニメを作っていることはもちろんだが、何より、世界で初めて3DCGの長編アニメを作り上げたことが凄い。1995年、パソコンがチャチャーンの音と共にが立ち上がっていた時代に、3Dだけで一本の映画を作るというのはトンデモナイ博打だった。


そんなピクサーが『トイ・ストーリー』をつくるまでの歴史をまとめてみた。元ネタは『ピクサー 早すぎた天才たちの大逆転劇』。


ピクサーの創始者の一人、エド・キャットムルはユタ大学でCGの研究をしていた。自分には絵の才能が無い、でもアニメーターになりたい、CGを使えば中割りとかなくてもアニメを作れるんじゃねぇの?、よっしゃCGやろう、というのが彼がCG研究者を志した動機である。ユタ大学時代の主な研究成果は、3Dの描写を最適化するための『Zバッファ』とCGの物体に質感を与える『テクスチャ・マッピング』。キャットムルはCGの基礎を作り上げた化け物級の研究者だった。


しかし、キャットムルの研究は早すぎた。エンターテイメント産業も学術界もCGの価値が良く分かっていなかった。当時、どんな企業も自前のコンピューターで3Dグラフィックをレンダリングするなんて、考えてもいなかった。そんなオーバーエジュケーティッドなキャットムルを拾ったのはニューヨーク工科大学(NYIT)の学長、アレグザンダー・シェアーだ。シェアーはNYITのCG研究所の所長としてキャットムルを雇った。このCG研究所に後のピクサーを支えるスタッフ達が集まってくる。


ピクサーの歴史は変態且つ天才なパトロンとの歴史である。ジョブズしかり、ルーカスしかり、そしてシェアーしかり。シェアーは金持ちでビジョナリーで変な人だった。ある日、CG研究所のスタッフが、コンピューターで作ったグラフィックをピクセル単位で記憶するフレーム・バッファが2台ほしいとシェアーにお願いした。当時、グラフィックス・ハードウェアはアホみたいに高かった。にも拘わらず、シェアーは5台も買って来た。マシンは多い越したことはない、若人よ、これで素晴らしい研究をしたまえ、という風に。シェアーの話は支離滅裂で、スタッフは彼が何を言っているのかさっぱり分からなかった。彼の唯一つの美点は、CGの可能性を信じていたことだ。


CG研究所には、セルオートマトンの専門家でもう一人のピクサー創始者であるアルヴィ・レイ・スミスが、グラフィックデザイナーのラルフ・グッゲンハイムが、そして後にCG研究で多大な成果を残す様々なスタッフがやってきた。オフィスにはいつも、ピンク・フロイド、クリーム、ボブ・ディランの音楽が流れる、ヒッピー文化ばりばりの環境だった。スタッフは昼夜の区別なく働いた。


CG研究所は技術オタクにとって素晴らしい環境だった。フレーム・バッファは1台当たりで256色の色彩を表現できたが、CG研究所はそれを三台を組み合わせて使っていたため、256色の三乗、つまり1600万色の色彩を表現することができた。それだけ高価な機械を贅沢に使っていたの研究所は他にはなかった。ジャギーに対処するアンチエイリアスの研究も、CG研究所が持つこれらのマシンによって発展した。


CG研究所のスタッフは技術オタクであると同時に、アニメ信者だった。CGを駆使して素晴らしいアニメを作りたい、そんな夢をかなえるため、CG研究所のスタッフがパトロンであるシェアーを監督に据えて、一本のアニメ映画をつくった。『チューバのタビー』というタイトルだ。これがひどい出来だった。技術オタクたちには、アニメの中割りを自動化する素晴らしいプログラムをつくれても、素晴らしいキャラクターを生み出し、素晴らしいストーリーを紡ぐ技術は無かった。何より、パトロンであるシェアーが映画製作を指揮できるような才能ある人間ではなかった。シェアーはウォルト・ディズニーではなかった。


キャットムル達は、アニメ映画をつくるという夢をかなえるために、映画製作を深く知っている他のパトロンを探すことにした。そして見つけたのが、ルーカスフィルムだ。スター・ウォーズ第一作『新たなる希望』の大ヒットで一躍金持ちになったルーカスフィルムは、コンピューター研究所を新設し、そこにフィルム編集、音響、合成の作業を担わせようとしていた。ルーカスフィルムからのオファーを受け、CG研究スタッフ達は次々とルーカスフィルムに転職した。シェアーを裏切ることになったが、夢のために必要な犠牲だった。


とはいえ、これも幸福な到着点ではなかった。ルーカスはCGに興味が無かった。実際、スター・ウォーズ第二作『帝国の逆襲』ではCGをほとんど使わなかった。キャットムル達はルーカスに対して自分たちの実力、CGを使って映画をつくる実力を見せつける必要があった。舞い込んだのは『スター・トレックII/カーンの逆襲』のあるシークエンスをつくる仕事だ。


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依頼されたのは、月のような惑星にレーザー(作中でジェネシス装置と呼ばれる)が撃ち込まれると、惑星全体に爆発が起こり、山が隆起し、大気が生まれ、一瞬で地球のような豊かな惑星になるという、60秒程度のシークエンスだった。コンピューター研究所のスタッフたちが技術を総動員し、美術を練り上げたシークエンスは、観客にも、関係者にも、ルーカスにも絶賛された。


ピクサーの映画製作への道は、短いシークエンスや短編の映画を作り、その出来を認めてもらい、長編映画をつくるための資金を得るというものだ。最先端の技術を使い、最高の物語をつくり、それを認めさせることで、資金の出し手が見つかると信じていた。


ルーカスフィルムに移ってまもなく、キャットムル達は若いアニメーターを拾い上げる。ジョン・ラセターである。


ラセターはディズニーでアニメーターとして働いていた。が、彼がいたころのディズニーは居心地の悪い場所だった。ヒット作に恵まれず、社内では派閥争い。ラセターの野心的な企画は社長に却下された。そして彼はディズニーを首になった。


ラセターはただ素晴らしいアニメを作りたかった。そして、そのためにはCGが必要であると確信していた。彼は『トロン』を観て、CGの表現に心を奪われていた。


ラセターはキャットムル達と意気投合し、ルーカスフィルムで働くことになった。技術オタクたちが苦手なアニメの表現手法や物語作成を担う貴重な人材として。


コンピューター研究所は、ラセターを中核に据えて、一本の短編アニメーションを製作した。『アンドレとウォーリーB.の冒険』である。


『アンドレとウォーリーB.の冒険』では、CGを使った素晴らしい背景が表現され、キャラクターが生き生きと描かれていた、当時としては。この作品が上映された国際会議シーグラフの観客は絶賛したが、ルーカスは全く気に入らなかった。作品の出来をもって、ルーカスはコンピューター研究所がアニメを製作するなんてありえないと確信してしまった。


ルーカスがコンピューター研究所に与えた役割はフィルム編集、音響、合成、そしてそのためのマシンを開発すること。ルーカスの要望をもとにコンピューター研究所は特殊映像効果を付与したり、様々な編集を施すためのハイスペックなマシンを作り上げた。このマシンは、ピクサー・イメージ・コンピューター(PIC)と命名された。ピクサーという名前はこの時に生まれた。


そもそもCGに興味の無かったルーカスは、PICの技術もろとも、コンピューター研究所を分離させ、売却しようと考えていた。が、なかなか買い手は見つからなかった。PICを商品化して収益を上げるというのがコンピューター研究所の企業価値だったが、PICは市場に全くマッチしていなかった。個人がAdobeソフトを使ってCG作品を作るなんて時代ではなかった。PICを量産して販売しても、そんなハイスペックマシンをあやつってCGを作り出せる企業など、そうそうなかった。


そんなコンピューター研究所を救ったのがスティーブ・ジョブズだ。ジョブズは500万ドルでルーカスフィルからコンピューター研究所の技術と人材を買い上げ、その全てを新しく設立した会社に移した。そして、会社をPICの名前をもとにピクサーと名付けた。


ジョブズはPICに大きな未来を感じていた。PICを量産して販売し、あらゆる個人をCGクリエイターにする、という壮大なビジョンがジョブズを突き動かしていた。そもそもジョブズをコンピューター開発に突き動かしてきたのも、コンピューターというとてつもない力を秘めたツールを一般のユーザーに安価で提供するという、エンパワーメントの思想だった。


ジョブズは、ルーカスと同じく、CGを使ったアニメには全く興味が無かった。とにかく、このハイスペックなグラフィックハードウェアを売りまくれ、それがジョブズの思いだった。結局、『トイ・ストーリー』が完成する直前まで、ジョブズはピクサーがアニメ製作に携わることに難色を示し続けた。


パトロンであるジョブズにピクサーへの資金拠出を納得させるため、キャットムル達はまたも奮闘する。前述のとおり、素晴らしいアニメ作品をつくればジョブズも認めてくれるはずだった。この時期につくったのが『ルクソー―Jr.』、ピクサーの代名詞ともいえる、あのランプのキャラクターが登場する短編である。『ルクソ―Jr.』は『アンドレとウォーリーB.の冒険』より随分良かった。"CGにしては"、"実写みたい"といった前置きは必要なかった。CG表現も、物語も『アンドレとウォーリーB.の冒険』とくらべものにならないほど洗練されており、実写映画に匹敵する表現を実現していた。


無論、アニメ製作は金にはならない。ピクサーは他に金を儲けなければならない。ハードウェアを販売する傍ら、テレビコマーシャルの製作を受注し更に、ディズニーとも契約を交わした。ピクサーは、ディズニー作品のコマの色付けなどをデジタル処理で行い、更に様々な特殊効果を施す作業を請け負った。マルチプレーンショットなど、手で行うには余りにも膨大な作業も、CGを用いることで、効率良く作り上げた。


アニメ製作も継続した。一輪車が主人公の『レッズ・ドリーム』をつくり、更にアカデミー賞を受賞することになるブリキのおもちゃが主人公の『ティン・トイ』をつくった。この『ティン・トイ』は、トイとつくように、『トイ・ストーリー』の元ネタである。


色々な仕事を請け負っているとはいえ、ピクサーは毎年赤字を計上していた。とにかく、メイン事業のハードウェア事業が芳しくない。市場は高性能なグラフィックマシンなど求めていなかった。


赤字が続いたことで、ジョブズはピクサーへの資金注入を渋った。その時に経営陣に出した条件が、従業員の持ち株を全て引き取り、従業員を大量に解雇するというものだ。その中には、キャットムルと共にCG研究所時代から部隊を支えてきたスミスも含まれていた。


スミスとジョブズの離別は有名だ。二人は普段から仲が悪かったのだが、ある会議でお互いが爆発してしまった。スミスが言葉で喧嘩を売り、ジョブズはそれに対して人格攻撃で応酬。ぶちぎれたスミスが、ジョブズ愛用のホワイトボードに何かを書いてしまった。そのホワイトボードはジョブズ以外は使用してはならないという暗黙の了解があったにも関わらずだ。これを機にジョブズはスミスを解雇した。ピクサーを離れた後、CG研究所時代からキャットムルと二人三脚で歩んで来たスミスは、ピクサーの歴史から抹消された。ピクサーのWebページにも彼の名前は一切出てこない。


そんな不信感を募らせるジョブズを口説き落とす最後の手段が『トイ・ストーリー』だった。ピクサーはついに、デジタル処理の受注先であるディズニーと長編アニメの資金提供の契約を交わした。全編3Dの超実験的な映画製作の契約である。この契約は不平等条約もいいところで、ディズニーが自己の裁量でいつでも製作を打ち切ることができ、さらに打ち切られた場合にピクサーが労働の対価として受け取れるのは三十五万ドルの放棄費用とかかった経費だけだった。それでも、念願の映画製作にピクサーのスタッフは喜んだ。


『トイ・ストーリー』の最初の主人公は『ティン・トイ』に出てきたブリキのおもちゃだった。そして、企画は幾度となく修正される。バディムービーにするためにもう一人の主人公が追加され、ブリキのおもちゃでは古臭いので、カウボーイの人形に差しかえられ、キャラクター達の容姿も性格も、何度も何度も再考された。監督を任されたラセターは、1から脚本を学ぶため、三日間のスクールにも通った。


とにかく、ピクサーは第一作に妥協をしなかった。持てる技術の全てを使い、素晴らしい脚本を仕上げ、よりリアルな3DCGを追及した。ライティングにも、カメラワークにも、無機物に命を与えるアニメ表現にも、全ての要素に全力を注いだ。


『トイ・ストーリー』の成功を信じていなかったのはジョブズただ一人だった。ジョブズは、キャットムルやラセターが死にもの狂いで『トイ・ストーリー』を作っている横で、ピクサーを売り飛ばす算段をしていた。その中にはジョブズのライバル、マイクロソフトも含まれていた。


が、ジョブズは仕上がってきた『トイ・ストーリー』を観て考えを一変させた。ジョブズは、この世界初の3Dアニメに、ほれ込んでしまったのだ。ジョブズは生まれ変わったらアニメ監督をしたいとまで言うようになった。長年、パトロンに悩まされてきたキャットムル達は、ようやく、志を同じくするパトロンを手に入れた。


そして『トイ・ストーリー』は信じられないほどの成功を収める。発表された1995年の全米最高興行収入を叩きだし、更にアカデミー賞オリジナル脚本賞を受賞した。そのあとのピクサーは、皆が知る、世界最高のアニメ、どころか、世界最高の映画を作り出す会社として、名声をほしいままにする。



『トイ・ストーリー』は、アニメ製作を夢見てきたCGオタクたちの、CG研究所から始まったとてつもなく長い滑走期間を経てようやく離陸した、夢の結晶だった。パソコンがチャチャーンといって立ち上がっていた時代に、一切の妥協を許さない人間達が命を削るこでのみ成し遂げた偉業だったのである。


最後に一言言いたい。


あーほんと、ピクサー怖い。