WEIRD

ゲーム業界をマーケティング視点で読み解く

Google参入の衝撃。ゲーム業界に進撃するIT業界の巨人たち

NVIDIA SHIELD TV Streaming Media Player (16GB) [2017] エヌビディア シールドTV ストリーミング メディア プレーヤー [並行輸入品]


 何やらゲーム業界の中心…というよりその周辺が騒がしい。


 Googleが進めるコードネーム「Yeti」。IT業界の巨人が満を持してゲームストリーミングサービスに参入する、という噂である。


japan.cnet.com


 もし「Yeti」がChromecastで動くようなアプリケーションとして提供されるのであれば、ひょっとすれば、AndroidiOS端末で動くようになるかもしれない。家庭用ゲームが「Yeti」で配信されると、アプリケーションに対応した全てのデバイスでそのゲームが稼働する。ひょっとすると『モンスターハンター:ワールド』がiPadで動くようになるかもしれない。Googleのゲームストリーミングサービス参入はそんなことを予感させる。


 2012年、かつてのSCEが「Gaikai」を買収した際には「これからはゲームストリーミング」的な風潮もあったが、時間と共に風化してしまった。後継サービス「PlayStation Now」もまだまだ普及していない。


 潮目が変わったのは今年の1月24日。マイクロソフトXbox One専用ゲームをグローバルリリースと同時にストリーミングサービス「Xbox Game Pass」にリリースすると発表した。『Halo』も『Forza』も「Xbox Game Pass」を契約していれば追加費用無しで遊ぶことができる。Xboxプラットフォームの独占タイトルに乏しいマイクロソフトが大きく舵を切ってきた。


 ゲームストリーミングで先行していたNvidiaの「Geforce Now」も、今までは専用端末での利用に限定していたが、Windows PCでも利用できるようにサービスを拡張。最低限のスペックのPCと回線速度を確保すれば、あらゆるWindows PCで1080p、120fpsでゲームを遊ぶことができる。


 ゲーム業界ではマルチプラットフォーム化が急速に進んでいる。ゲームエンジンがあらゆるプラットフォームに対応することで、デベロッパーが大きな工数をかけずに複数プラットフォームでリリースすることが可能になった。グローバル市場で最も重要なSteam配信ゲームエンジンの恩恵にあずかっている。


 そして究極的なマルチプラットフォーム化ともいえるのがゲームストリーミングだ。ゲームの処理はクラウド上(AzureでもAWSでもGCPでも)行い、その結果だけを端末に表示すれば良い。


 マイクロソフトNvidiaといったIT業界の巨人たちがゲームをハード機からひっぺがそうと躍起になっている。更にここにGoogleが参入してくる。「Twitch」を擁するAmazonも黙っていないだろう。


 更に更に、マイクロソフトがSteamを買収して、「Steam配信ゲームも独占的に『Xbox Game Pass』で遊べます、Windows PCでOKよ」なんて言い出した日には、「わたし(100ドルでも200ドルでも)出すわ」的な勢いでクレカ登録するしかない。


 2017年のゲーム業界はNintendo Switchのヤバみが深かったが、2018年のゲーム業界はIT業界の巨人の進撃のヤバみがもっと深くてとにかくヤバい

日本のeスポーツ市場規模を計算してみた

eスポーツマガジン (白夜ムック565)


 日本eスポーツ連合の発足、プロライセンス制度発行などメディアを騒がせているeスポーツだが、「そもそもどれくらいの市場規模があるの? 紅しょうがぐらい?」という質問にまだどの企業も団体も答えていない。「日本は世界の流行に後れています!」という定性的な話ばかり。


 なので、すでに公表されているデータを元にざっくりとeスポーツ市場規模を計算してみた。


 まずはグローバルについて、擦られまくっているSuper Data社発行の「eスポーツグローバルマーケットレポート2016」によるeスポーツ市場規模は、


・北米: 300億円
・欧州: 293億円
・アジア: 357億円
(※いずれも1ドル109円の為替レートで計算)


 ぐらい。


 一方日本のeスポーツ市場規模を上述レポートにあわせて「eスポーツ大会を興行として運営した際の収入」として、


 ①eスポーツ興行の観戦者のチケット収入を計算

 ②大会の興行収入においてチケット収入が占める割合で割り戻す


 という手法で計算する。


 まずは①について、「ファミ通ゲーム白書」によると、5歳~59歳の人口7911万人の中で「eスポーツを観戦したり、動画で見る」という割合は全体の2%。人口にこの割合を乗算して、158万2,200人(A)の観戦・視聴者がいるという結果が求められる。

 
 (A)の中で観戦者の割合を算出するため、「LJL 2017 Spring Split Final」の来場者数、ネット視聴者数の割合を利用する。(ファミ通ゲーム白書の調査と開催時期が近いので) 東京ビッグサイトで開かれた大会の来場者数は2500人。対してネット視聴者数はYouTubeが4万1484人(最大視聴者数のGame1を採用、2018年2月7日時点)、Twitchが2万1991人(2018年2月7日時点)、あわせて6万3475人。来場者が占める割合は3.8%。この割合を用いて(A)に乗算すると5万9954人(B)という日本におけるeスポーツ観戦者数が求められる。


 (B)は半年に1回程度直接会場で観戦すると仮定し、(B)に2を乗算して111万9909人(C)


 (C)が購入するチケット価格は2500円として、eスポーツ興行収入のチケット収入は(C)に2500を乗算し、結果は2億9977万円(D)


 次に②について、株式会社NTTデータ経営研究所のレポートを使う。「平成28年コンテンツ産業強化対策支援事業(オンラインゲームの海外展開強化等に向けた調査事業)報告書」(http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000848.pdf)によると、ゲーム会社主催型のeスポーツ大会におけるチケット収入が占める割合は40%。他、スポンサー料が40%、放映権料が13%、物販が7%という割合。


 この割合を用いて(D)を0.4で割り戻すと、7億4943万円という数値が求められる。これがざっくりとした日本のeスポーツ市場規模だ。


 この値を北米300億円、欧州293億円、アジア357億円という数字と比べてみれば、いかに日本のeスポーツ市場規模が小さいかが見てとれる。


 マーケティングの第一歩は最初の認知を獲得すること。認知した人からじょうごのように選別されてファン(消費者)が形成されていくが、日本では2017年時点の認知率が2%に過ぎなかったので、これくらいの市場規模にしかならない。


 みんな「eスポーツが日本だけ流行っていない!」というところに目を奪われがちだが、こうなっている現状の要因の一つはPCゲーム市場の小ささにある。eスポーツではPCゲームが主流であるが、日本はモバイルゲーム、家庭用ゲームがゲーム市場の大半を占める。


 かたや北米のPC市場規模は7000億円程度、アジアは1兆円を超える。PCゲーム市場、PCゲーム人口の母数にそもそも差があり過ぎる。


 「モバイルゲームや家庭用ゲームを用いた日本独自のeスポーツを」という主張もなくはないが、「世界で活躍する選手を」とか「オリンピックを見据えて」といった議論をするためには、日本でPCゲーム人口を増やしていくほかない。


 というわけで結論は「ゲーミングPC買ってPCゲームやろうね。」現場からは以上です。

店頭からゲームがなくなる日。『モンスターハンター:ワールド』が起こした静かな革命

f:id:ktadaki:20180201192030j:plain


 『モンスターハンター: ワールド』が販売本数500万本を突破し、国内でもPS4ソフト歴代販売本数を塗り替えた。非携帯版のモンハンシリーズの成功は家庭用ゲーム業界にとって喜ばしい。Switch発売から始まった「家庭用ゲームへの回帰」が勢いづいてきた印象がある。


 『モンスターハンター: ワールド』の成功は表面的な販売本数以上に、気づきにくいが重要な変化をもたらした。ノンパッケージ(ダウンロード)の販売である。


 カプコンが初動販売500万本という数字と共に国内での販売本数が占める比率が4割程度であることを発表した。よって、国内の初動販売本数は200万本ほどと推定される。


 更に追ってファミ通が国内のパッケージ版の販売本数を135万本と発表。これにより、200万本から135万本を引いた65万本がノンパッケージ版(ダウンロード)販売本数となる。比率にすると全体の32.5%だ。


 この数字がどのような意味を持つのか。


 「ファミ通ゲーム白書2017」によるゲームプレイヤー調査によると、「常にパッケージ版を購入する」比率はゲームプレイヤーの67%、「主にパッケージ版を購入し、たまにノンパッケージ版を購入する」比率は23%。合わせて、パッケージ主流派が80%という結果である。


f:id:ktadaki:20180206113714p:plain


 パブリッシャーの情報を参照すると、スクエアエニックスが決算時に全タイトルのパッケージ版・ノンパッケージ版の合計販売本数を発表しており、2017年国内実績ではパッケージ版が85%、ノンパッケージ版が15%という結果になっている。(SQUARE ENIX 2017年3月期 決算説明資料 http://www.hd.square-enix.com/jpn/news/pdf/17q4slidesJPN.pdf )


 つまり、今まで日本のゲーム産業はパッケージ版の流通が大半で、ノンパッケージ版は支流に過ぎなかった。21世紀になった今でも、日本ではゲーム発売日に販売店に連なる行列がニュースになり、昨年発売された「ドラゴンクエストXI」でも行列がメディアで報道された。


 そんな中、PS4で最も売れた『モンスターハンター: ワールド』のノンパッケージ比率が平均値の2倍を超えたのである。行列をつくるには今年の冬は寒すぎたという外的要因もあるかもしれないが、これは家庭用ゲーム市場における販売チャネルのシフトであり、業界にとって大きな出来事だ。


 もう一度スクエアエニックスの決算資料を参照すると、欧米のパッケージ・ノンパッケージ比率はおよそ50%。アジアにいたってはノンパッケージの販売比率のほうが高い。世界のゲーム市場において、日本の「パッケージ信仰」は特殊といえる。


 考えてみれば、21世紀に入って音楽も映画も本もマンガも「パッケージ」は勢いをなくし、ダウンロードまたはストリーミングに代替されていった。スマホゲームではそもそもパッケージなんていうものは存在せず、ネット上のマーケットにしか商品は存在しない。PCゲームにしても、パッケージ版を購入する場合には、「エロゲーの箱を壁一面に並べてうっとりしたい」ぐらいの動機しか存在しないだろう、たぶん
 

 家庭用ゲームだけが「パッケージ」に大きく依存してきたのだ。


 『モンスターハンター: ワールド』で顕著になった大きなシフトは、マーケットプレイスでのキャンペーンの展開、ダウンロードコンテンツの配信といったこれまでのパブリッシャーのマーケティング施策のたまものだろう。

 
 "棚"という物理的な制限が無いマーケットプレイスでは過去作から最新作まであらゆるタイトルを展開できる。期間限定セールをかければ、過去作でも大きな収入源になる。パブリッシャーにとって、販売を自由にコントロールできるというメリットはとてつもなく大きい。


 Amazonが、Appleがそうであったように、こうなってくるとゲーム業界においてもマーケットプレイスが重要になってくるだろう。どこで売るのか、どのように売るのか。頻繁にユーザーがアクセスし、コンテンツが充実した販売チャネルにユーザーはひかれていく。


 現在ゲーム業界最強のマーケットプレイスはSteamだ(日本以外で)。PCという最も普及した汎用機で動くマーケットプレイスに世界中のユーザーが集まっている。


 これをマイクロソフトが買収するという噂があるが、さもありなん。「販売チャネルをいかに制するかが」今後のゲーム業界において最も重要な課題だからである。


 『モンスターハンター: ワールド』のノンパッケージ比率が高かったのは静かな革命の始まりだったのか、それとも「全部雪のせい」だったのか。


 筆者は前者だと思っているので、軽く震えあがっている(色んな意味で)。